「そして、ドアは開かれる」のその後のゲラアル。2023/1/22いきなり!レッドカーペット3で公開した無配小説です。
FB3本編後、逃亡犯と教師の関係のまま革命をやめて和解したゲラアルです。ただのえろ。
※ゲラアル前提モブアル描写があります
妹を喪い、恋人を失い、弟からの信頼も失って、それでも生きていかなければならなくなったとき、胸の真ん中にぽっかりと穴が開いた。まるで〝うろ〟だ。真っ黒で乾いていて底が見えない。その〝うろ〟は胸の中心にすっかり根付いてしまっていて、もう取り払うことも、小さくすることもできないだろう。僕は、それを隠すことばかりうまくなった。
笑顔で楽しげに、親切に、善意を持って、ほんの少しのいたずら心は忘れずに……そう見せかけるだけで、関わる誰もが笑顔になった。それでよかった。正しいことを選べていると安堵した。
だが、うろはなくならない。普段は蓋をして、いくつものぶ厚い布で覆い隠せていても、ふとした瞬間に漏れ出るすきま風を感じることがあった。その風はひどく冷たく、ときに全身を蝕んだ。うろの中に閉じ込めていたはずの冷えた空気が、黒い影と共に全身に広がっていく。どんなにほかのもので誤魔化そうとしても、その感覚はなくならない。そして僕は、うろの奥から響き続ける冷たい風の悲鳴から逃れるようにして、喧騒の中に身を隠した。
音楽と酒、たばこの臭い、雑多な人々の話し声――それらが混じり合う店の中に入ったのは、ひとりでいるとろくな考えが浮かばないからだ。かといって、知り合いと過ごすのも苦痛だった。だから、そのときの僕にとって、完全にひとりではないけれど、特定の誰かといるわけでもないその空間はちょうどよかった。
うろを自力で隠しきれなくなると店を訪れ、なんとか緩い蓋をして日常に戻る。そんな生活を繰り返した結果、何度目かの訪問のときに声をかけられたのは、おそらく偶然ではないだろう。寄り添う男女を見て羨ましいと思ってしまっていたから、それが顔に出ていたのかもしれない。とにかく、僕と近い年頃のその男は、こちらの顔色を窺いながら声をかけてきた。なんて言っていたのかはよく覚えていない。僕はその男の言葉よりも、彼が持つ鮮やかなブロンドに目を奪われていた。波打つ金色が光に照らされて、ほんのりと透けている。
――似てる。
そう思った。その途端に、夜中にこっそりと繰り返した逢瀬の記憶がよみがえってくる。
薄暗がりの中、ちいさな灯かりだけがお互いの顔を照らし出していた。力強い太陽光とは違う、やわらかな光で照らされたゲラートの美しさに何度目を奪われたか、とてもじゃないが数えきれない。僕を真上から見下ろす彼の髪は、ベッドを覆い隠す薄い天蓋のようだった――。
その思い出が記憶の底から溢れ出すと、ほんの少しだけ寒さがやわらいだ気がした。でも、そのぬくもりは一瞬で消え去ってしまう。そうすると余計にうろの存在を強く感じて、いよいよ空洞を隠しきれなくなっていく。
そうして僕は、その男の誘いに乗った。
相手に強い興味があったわけじゃないけれど、男なら誰でもよかったわけでもない。ただ、彼のものとよく似たやわらかなブロンドを感じたかった。危険な相手である可能性も考えたが、万が一のことがあっても自分の方が強いという自信があったし、行為自体は経験していたからそこまで抵抗感もなかった。
そうやって過ごした一夜は、想像していたよりもしっかりとうろの在り処を覆い隠してくれた。穴自体が塞がることはなかったが、快感に翻弄されている間だけは、自分の中心に空洞があるということを忘れられた。ひとたび行為を終えてしまうと、うろの存在を再び認識することになったが、一時的にすきま風を封じ込めておけるだけでも僕にとっては十分意味がある。それを学習してからは、全身がすきま風で冷え切るたびに同じ行為を繰り返した。
特定の相手はつくらない。大抵は店で声をかけてきた男だったけれど、その中でも相手は慎重に選んだ。僕が選ぶ相手の条件は決まっている。髪、唇、輪郭、背格好――皆、どこかがゲラートに似ている男たちだ。それ以外はどうでもよかったから、相手からすれば無節操に選んでいるように見えただろう。でも、そんなこともどうでもよかった。似た瞳など存在しない、あのオッドアイが恋しかった。
そんなときに選んだその相手は、外見的にはゲラートを思わせる部分はなかった。よく似ていたのは、その声だ。ほどよい甘さのあるハスキーな声。顔さえ見なければ、ゲラートが話しているんじゃないかと思うくらいには声質が近かった。だから、僕は迷うことなくその男の誘いに乗った。
運がいいことに、相手は優しい男だった。僕が慣れているとわかっても、丁寧に、じっくりと快感を与えていく。僕は甘んじて愛撫を受け入れ、その声に浸るために目を閉じた。腹の中を貫かれ、揺さぶられながら、恋しいひとによく似た声を聞くのは心地よかった。少しの罪悪感と道徳心はどこかに投げ捨てて、与えられる快感に素直に酔う。僕が悦んで声をあげると、相手の男も嬉しそうに快楽に酔いしれていた。
互いに行為を十分に楽しんだあと、限界を感じた僕は、最後に自分の性器に手を伸ばした。中を突かれながらペニスを扱いて、吐き出して終わり。そう思っていたのに、僕の思惑通りに事は運ばなかった。相手の男が僕の腕を掴んで、ベッドに縫い留めてしまったのだ。
予想外の仕打ちに「なんで……っ」と切羽詰まった声をあげた僕に、男は優しく微笑んでこう言った。
「君はナカだけでイけそうだから、もう少しがんばってみない?」
何を言われているのかわからず、ゆるゆると体内を擦られながら首を傾げる。
「なか、だけ……?」
「ペニスを触らなくてもイけるんだよ。もちろん人によるけど……君はナカでちゃんと感じてるし、試す価値はあると思うよ」
どうする? と決定権を委ねられた僕は、好奇心に負けて頷いた。爽やかな笑みを浮かべた男が僕の腕から手を離し、ベッドの上に投げ出していた両足を抱え直す。大きく足を開かされた僕は、自分でペニスを触ってしまわないように枕をきつく握りしめた。
再び腰を動かしたそのひとは、的確に僕の弱いところを刺激し始めた。腹側を無遠慮にごりごりと抉られて、泣き声みたいな情けない声で喘ぐ。やむことのない刺激が快楽なのか苦痛なのか段々わからなくなってきて、ついに涙がこめかみを伝った。全身が熱い。汗が吹き出る。それでも途切れない刺激に悶えていると、足を解放した男が覆い被さってきて、湿った僕の髪を撫でた。そして、耳元で囁く。
「大丈夫、力を抜いて」
耳によく馴染む声でそう言われた瞬間、体内でくすぶっていた熱が一気に弾けて、全身を震わせて達していた。どろり、と勢いなく吐き出された精液がへそに溜まって腹部を汚す。僕はしばらくの間、絶頂の余韻から抜け出せずに呆然としていた。
「すごい……」
思わず呟いた僕を見て、そのひとが笑った、気がした。
本当のところはよく覚えていないからわからない。こんなに頭が真っ白になるのは初めての経験だった。これまでに試したほかのどんな方法よりも明確に何も考えられなくなる瞬間があることに感激して、それ以来、うろの在り処を誤魔化すためにその方法を選ぶようになった。
*
すっかり見慣れてしまったベッドの上で、肌を重ねて体温をわけ合う。ゲラートの手が、唇が、舌が全身を這い回り、私の反応を楽しむかのように肌をくすぐる。それだけのことに体は悦びに震え、繋がっている箇所がきゅう、と締まるのが自分でもわかった。それを感じ取ったゲラートが吐息だけで笑う。
こうして再びゲラートと抱き合うようになってしばらくが経った。復縁して間もない頃は数十年ぶりの行為とあって四苦八苦していたのだが、今ではすっかり慣れたものだ。お互いの癖もいいところも手に取るようにわかる。昔と同じとまではいかないが、多少の無理もきくようになった。この年齢なりの楽しみ方を学んだ、ともいえるだろう。
私の体を〝学んだ〟手によって与えられる緩やかな快楽に満たされて、うっとりと恋人の顔を見上げる。ゲラートは、少しの変化も逃すまいとするように私を見ていた。何を考えているのか正確にはわからなくても、その瞳を見れば感情は伝わってくる。まなざしに宿る熱が愛しくて離れがたくて、手を伸ばしてゲラートを引き寄せた。
上半身が近付き、唇が重なる。みっともなく舌を突き出し、ゲラートの口内に潜り込ませて、舌先で上あごをなぞる。そして、ゲラートの腰に緩く足を絡めると、一際強く腹の奥を穿たれた。
「アッ、っ、ゲラート」
体の奥深くから痺れるような快感が駆け抜けていき、どろりと煮詰まった甘ったるい声がこぼれ落ちた。ゲラートはそれに満足そうに笑って、もう一度深く口付けてから、今度は下半身に手を伸ばす。ゲラートの手が、張り詰めて二人の間で揺れているペニスに触れて扱き始める。
普段ならこのまま達してしまうところだが、ふと思い留まって出さずに耐えた。抱かれる感覚を取り戻してきた今なら、また中でイけるかもしれない……そんなことを思ったのだ。
ひとたびその考えが頭をよぎってしまうと、強烈な快楽に対する好奇心がむくむくと沸き上がってきた。それに、前を触らずにイくところはゲラートには見せたことがないから、彼も楽しんでくれるかもしれない――そんな下心もあって、私はゲラートの手をやんわりと止めて、ペニスから離すよう促した。なぜ急に止められたのか、理由がわからないのだろう。ゲラートは疑問符を顔に張り付けて私の顔を見つめている。
私はそんなゲラートを見つめ返し、そっと囁いた。
「今日は触らないで、このまま……」
「だが、苦しいだろう」
「平気だから、っはあ、……たのむよ」
動かずとも感じる、腹の中のペニスの存在に身震いしてわずかに小首をかしげてみせると、ゲラートは渋々といった様子で手を離し、再びゆっくりと腰を動かし始めた。
硬いペニスが腹側のしこりを押し潰すたびに足先が跳ねる。快感を隠すことなく喘ぐと、繋がっている箇所からぐちゅ、と濡れた音がして、潤滑剤が臀部を伝い落ちた。
「っ、あ、そこ……!」
「ああ、ッわかってる」
「はぁ、っぅ、あ……っ、あ、ゲラート、でる……ッ」
「え?」
ゲラートが疑問の声をあげたのと、私が達したのはほぼ同時だった。無事に中の刺激だけで射精できたことに安堵しつつ、快楽の余韻に身を任せる。そのさなか、私の腹を濡らしている精液をゲラートの指が撫でたことで、ひくりと下腹部が震えた。
深く呼吸しながら、わずかに伏せていた目蓋を持ち上げると、指先で掬い上げた精液をじっと眺めているゲラートの姿があった。その表情がどこか硬い気がして違和感を覚える。慎重に「ゲラート?」と声をかけると、ゲラートは精液をまとった指を私の唇に押し付けた。おずおずと口を開き、ゆっくりとそれを舐め取る。自分の体液を味わう趣味はないが、ゲラートがそれを望むならやぶさかではない。特にうまくもない精液をきれいに舐めてから指を解放する。そうすると、ゲラートは唾液で濡れた指で、同じく湿っている私の唇を撫でた。ぐい、といささか乱暴な手つきで、指先が唇の端から端へと移動していく。
「どこで覚えた?」
「なに……?」
「随分と慣れているんだな、アルバス。誰に教わった?」
しまった、と思ったときにはもう遅かった。ゲラートの瞳は野蛮な光を湛えて私を突き刺している。一緒に楽しめればと思ったのだが、残念ながら、そうはならなかったらしい。それどころか、いらぬ嫉妬を引き出してしまったようだ。ゲラートは穏やかな口調で訊ねてはいるが、明らかにさっきまでより声が低い。
「覚えてないよ。昔のことだし、君以外の相手はどうでもよかったからね」
宥めるようにゲラートの手にキスをして囁く。すると、ゲラートはほんの少し眉を持ち上げて、私の本心を探るみたいに瞳の奥深くまで覗き込んできた。
ゲラートは私が誤魔化していると思っているのかもしれないが、話したことはすべて真実だ。出来事としては覚えているが、相手のことはよく覚えていない。
私の反応をじっと観察してから、「そうか」とだけ呟いてゲラートが上体を起こす。これで不穏な問答は終わったのだ――そう思って胸を撫で下ろしたのも束の間、ゲラートは、ペニスを挿入したまま私の腰を両手で掴んで持ち上げた。それまでとは違う角度で粘膜を刺激されて、思わず上ずった声が漏れ出る。臀部がシーツから浮き、ゲラートの腿に下半身を預けるような姿勢になったことで、より深くペニスが入り込んで小さく呻いた。
その様子を見下ろしながら、ゲラートはうっそりと微笑んだ。しかし、その目は笑っていない。
「なら、これはどうだ? 君のことだから経験済みかな」
「……っなに、ぁ……! ま、まってくれ、ゲラート、ふかい、ッ」
「君なら知っているだろう? アルバス……ここがイイことも」
「は、ぁ……なに、しらな、ぁっア、……!」
ぐ、ぐ、と断続的に奥を刺激される。そこが行き止まりだと感じる場所に到達しているというのに、ゲラートは動きを止めようとしない。さらに奥があるのだとでもいうように、何度もペニスの先端を押し付けてくる。
「ゲラート、これ、苦しい……っ」
「なんだ、本当に知らないのか。大丈夫だ、もっと気持ちよくなれるぞ」
私が本気で当惑していることに満足したのか、ゲラートは優しく下腹部を撫でた。うっすらと上がった口角の端々に喜色が滲んでいるのが見て取れる。そのことに、私の胸にも喜びが沸き上がった。ゲラートとしては、知らない間に他人に開発されていたことへの意趣返しのつもりなのだろうが、困ったことに、彼にされて嫌な行為など私にはないのだ。
改めてゲラートの指の感触に集中し、ゆっくりと息を吐いて下腹部から力を抜いていく。そうして与えられる力の流れに身を任せていると、腹の一番奥深く、さっきから何度も刺激されている場所に違和感を覚え始めた。
「え……?」
「大丈夫だ、そのまま……」
ぐ、と腹の奥を押されるたびに、自分の臀部とゲラートの下腹部がより強く密着している気がする。思わず身構えそうになってしまったが、腹を撫でている指がそれを宥めた。だが、そうしている間もゲラートは腰の動きを止めようとはせず、腹の奥の違和感は募っていくばかりだ。やがて、ぞわり、と肌が粟立ち、いよいよ妙な感覚に襲われ始めた。困惑し、シーツをきつく握りしめる。
「げら、ゲラート、ぁ、なにか、へんだ……ッ」
「安心してくれ、アルバス。私は君を傷つけたりしない。そうだろう?」
そういうことじゃない、と言いたかったが、もうそれどころではなかった。あ、あ、と音とも呼べないような声が勝手に喉から溢れ出して止まらない。腹の中の感覚がいつもと違う。わずかな痛みと、それより強い、腰から浮き上がるような感覚。
――嫌な予感がする、と思った次の瞬間、体の奥深くを拓かれる感触がして、目の前に星が散った。
「……ひっぁ、あ、っあ――……!」
「……ッ」
体内で聞いたことのない音が響いた気がした。反射的に逃げそうになった腰をゲラートの手が捕らえる。挿入の衝撃からか、自身も息を詰めているというのに、ゲラートの手は私の腰を引き寄せて離さなかった。同じ姿勢のまま、どちらも動いてなどいないのに、腹の中が勝手に蠢いて制御できなくなっている。
「はあ……ちゃんと入ったな」
「あ、ぁ、ゲラート、これは、ッなん、だ」
「慣れるとここで強烈な快感が得られるぞ、アルバス」
返答ともいえないような返事をして、ゲラートはほんの少しだけ腰を揺すった。ほとんど動かずに腰を押し付けただけなのに、ぐぶ、と奥から鈍い音がして、より深く先端が嵌まり込む。
私は思わず目を大きく開いて、シーツを強く蹴っていた。拓かれたばかりのその場所から、じわじわと快感が滲み出して全身に広がっていく。それを肌身で感じて、普段とは違う種類の快楽が急に空恐ろしくなった。その動きを止めたくて、抱きつくみたいにゲラートの腰に両足を絡める。
「ま、待ってくれ、っぅ、あ、うご、くな……!」
「動いてるのは君もだぞ、アルバス」
「っ、ふ、……ぅあ、っ」
無意識に腰が揺れていたことを知って顔に熱が集まる。目を閉じ、なんとか体を制御しようとしている私を尻目に、ゲラートはゆるゆると動き続けた。ただ小さな振動を与えられているだけなのに、腹の奥から溶けていくみたいだ。あつい。くるしい。それなのに、短い呼吸を繰り返す私を見下ろしているゲラートの声は楽しげだ。
「自らの肉体でもって経験するのは嫌か? 教授殿?」
「っあ、ぁ……ッきみは、しらないから……っ」
「何を?」
「きみ相手だと、っよすぎて、つらい」
ろくに回らない頭でなんとかそれだけ答えると、ゲラートの動きがぴたりと止まった。ようやく少し息をつけるのかと安堵して、そっと目を開けてゲラートの顔を見上げる。
そこにあったのは、これまで以上にぎらぎらと燃え盛る熱をはらんだ瞳だった。捕食者を前にして、ぞくぞくと肌が粟立つ。
ゲラートは私の言葉に答えることなく、激しく腰を動かし始めた。初めて拓かれた奥も、慣れた前のしこりも同時に刺激されて、自然と目に涙が浮かぶ。
「えっ、ぁ、ゲラート、待っ」
「待たない」
「アっ、だめだ、ゲラートッ、げらーと、くる、……っ」
目の前が真っ白になるような未知の快感が腹の奥から頭のてっぺんまで一気に駆け上って、びくり、と一際大きく体が跳ねた。全身が力んでぶるぶると震え、喘ぐことすらできない。
その瞬間からどれくらい時間が経ったのだろう。全身を駆け巡っていた感覚が落ち着きを見せ始めてようやく脱力したとき、ゲラートは目を閉じて大きく息をついていた。どうやら彼も射精したらしい。感覚が麻痺していてわからないが、腹の中は濡れているに違いない。
わずかに身を引いて奥の、拓かれたばかりの場所から先端を抜いたゲラートは、挿入はしたまま、身を屈めてキスをした。唇だけではなく、目尻にも頬にも愛撫して、最後に優しく頬を撫でる。
「出さずにイけたな」
「え……ああ、本当だ、そうだったのか……」
射精しないままくたりと力を失った自らの性器を確認して、ぼんやりと、先程までの行為に想いを馳せる。
あんなに奥まで挿入されたのも、射精せずに達したのも初めてのことだった。そういうこともあると噂には聞いていたが、まさか自分が経験することになるとは。
……ゲラートは、こうなるとわかっていたようだが。
ふと、その考えに思い至り、胸の中心がちりちりと焦げた。少しずつ冷静になってきた頭が考えなくてもいいことまで考え始める。彼が手慣れていた理由などひとつしか思い当たらない。さらに、さっき自分が言われたことも思い出して、思考が声になってぽろりとこぼれ落ちた。
「きみは、誰に教わったんだ?」
随分と嫌みったらしい口調だな、と自分で情けなくなった。離れている間の、過去のことだろうとわかっているのに、これでは駄々をこねる子どもと何も変わらない。
突然そんなことを言われたゲラートはというと、ばつが悪そうに顔をしかめていた。それから、まだ湿っている手のひらで私の頬を包み込む。
「特別な相手じゃなかった。ただの君の代わりだ」
「……それでも、妬ける」
まともに目も見れず、苦笑してそう告げる。すると、視界の端でゲラートの口角がゆっくりと持ち上がっていくのが見えた。「アルバス、アル」と何度も名を呼ばれ、私は仕方なく、落としていた目線を上げていく。その先で、色違いのふたつの瞳いっぱいに私の姿が映り込んでいるのが見えた。
「愛しいと感じるのは君だけだ、アルバス。人生において、この先も、ずっと……」
濡れて乱れた前髪がゲラートの額にかかり、なだらかな輪郭をよりいっそう惹き立てる。たったそれだけのことに胸を締め付けられてしまう自分の単純さにまた苦笑して、私はゲラートの頬に手を伸ばした。汗を含んで湿った髪をこの手で撫でる。そうすることで、肌に直接触れた手のひらだけではなく、胸の中心に居座り続けている空洞の奥までじんわりと温まっていくのを実感した。
〝うろ〟はなくならない。一度できた穴が完全に埋まることはない。けれど、この愛を再び手にしたそのときから、すきま風が全身を蝕むこともなくなった。
そんなふうに感じていることが言葉にしなくても伝わったのか、ゲラートは深く微笑み、ゆっくりと私の体を撫で始めた。肩や腹部、胸までじっくりと手のひらが触れたことで、冷めきっていなかった熱がまた高まり始める。
年甲斐もなくその先を求めているとお互いに察して妙におかしくなり、二人揃ってくすくすと笑い出した。激しい快楽を求めなくても繋がることはできると、今の私たちは知っている。
「ゲラート、続きをしよう。今度はゆっくりとね」
「君となら、それも悪くない」
ゲラートが楽しそうに笑うから、私もつられて笑った。
簡単に嫉妬して、簡単に絆される。君も私も本当にどうしようもない愚かな人間で、そして、その分だけ愛おしい。