ぜんぶ あいして *

さわやかMDRマルシェ2210で公開した無配です。若ゲラアル。
おなかが痛いアルバスと中出しの話。挿入はしてないけどいかがわしいのでR18です。

 近頃、アルバスはよく体調を崩している。
 具合が悪いといっても、何も発熱したり嘔吐したりしているわけではない。ただ腹が痛むのだ。薬の用意自体はアルバスにとってお手の物だったし、服用して少し休んでいれば症状は落ち着いたから、初めはちょっと調子を崩しただけだろうと気にしなかった。
 だが、それが二度、三度と続き、痛む腹を抱え、前かがみになってよたよたと自室を出てくるアルバスを見る弟の眉間にしわが集まるようになって、アルバスはようやく真剣に考え始めた。
 四度目の腹痛に耐えて自室のベッドの上で蹲りながら、アルバスは思考する。
 まず考えたのは、環境に体が慣れていないという可能性だ。だが、谷に越してきてから一か月以上経っているから、その説は今さら感が否めない。同じものを食べているアバーフォースやアリアナは体調を崩していないから、食事が原因ということもないだろう。自分だけに関係していること……と思考を巡らせ、心当たりに思い至った瞬間、アルバスは顔を真っ赤に染めた。
 熱を持つ頬に腕を押し当て、誰にも見られていないというのにシャツの袖で顔を隠す。息を詰めてみても深呼吸しても、顔の熱は引いていくどころかますます上がっていくばかりでどうにもならず、アルバスは現実から逃げるかのようにきつく目蓋を閉じた。
 予感はあったのだ。最初にこの症状が現れたのは、年下の恋人と初めて体を重ねた次の日だったから。だからアルバスは、最初はそういうものなのかもしれないと考え、気にしなかった。本来そういう用途には使わない場所を使ったわけだし、内臓を直に揉まれたようなものなのだから、違和感はあって然るべきだと思った。
 だから、アルバスがこんなにも赤面している理由は、その行為が腹痛の原因だったからではない。アルバスに不調をもたらしているものが、行為の際に腹の中に出されたゲラートの精液だと気付いてしまったからだ。
 いくら才能に秀でているといっても、所詮は年頃の男二人。一度一線を越えてしまうと、途端に歯止めがきかなくなった。少しでも触れていたくて、アルバスは強引に時間を作ってでもゲラートに会いに行ったし、そうできないときはゲラートがこっそりと家までやってきた。
 そうして二人きりになると、もう話しているだけでは満足できず、時間がない中で行為に及ぶこともあった。そういうときは挿入はせず、互いに触り合うだけだ。アルバスはゲラートのペニスを触り、ゲラートはアルバスのペニスとアナルを弄った。白く長い指で内側から快感を与えられて泣くように喘いだこともあるが、そのあと体調に変化が起きた記憶はない。アルバスが腹痛に悩まされるのは決まって、セックスの終わりにゲラートが中に出した次の日だった。
 前日の行為を思い出していたたまれなくなり、アルバスは枕に顔を押し付ける。
 だって、行為の最後に自分がどんな反応をしたのかはっきりと覚えている。無駄に良い記憶力のおかげで、一人きりのベッドの上でも、行為の最中の音やにおいまで再現できた。ゲラートがアルバスの下半身に腰を擦り付けて熱い息を吐く瞬間も、腹の奥に感じる違和感も、熱に浮かされたオッドアイのきらめきも、何もかも鮮明に覚えている。
 それに付随して、自分がどんな甘ったるい声でそれに応えたのかも思い出してしまい、アルバスはベッドの中でさらに体を丸めて縮こまった。目を閉じたことでできた暗闇の中で、アルバスは小さく唸る。中に出すのはやめてくれとは言えなかったし、言いたくない。困ったことに、この腹痛の原因がゲラートだけにあるとは言えないのだ。
 なにしろ、アルバスも自分の中に射精されることを喜んでいた。ゲラートの欲が自分に向いている、それほどまでに愛されているのだと思えて、ゲラートの精を腹の奥で受け止める瞬間に幸福感を覚えるほどだ。それに、中に出すたびに処理しなければならないと伝えて、ゲラートに面倒だと思われたくなかった。それだけのことでゲラートが別れを告げるなんて考えているわけではないが、多少は興味が薄れてしまうかも、という不穏な考えが頭をよぎる。ゲラートの意識が少しでも自分から逸れるなんて、それだけは嫌だ。そう思うほどにゲラートにまいっていた。
 そして、アルバスはひっそりと決意した。知られなければいいのだ。これまでどおりセックスして、自分でこっそりと処理してしまえばいい。
 今度そういう事態になったら気を付けよう、と心の中で決めて、アルバスは鈍い痛みが去るのを待った。

    *

 月が天に上り、家々の灯りが消える頃、ゲラートの腕の中で、アルバスはうっとりと熱の名残を感じさせる息を吐いた。二人は一つのベッドの中でぴったりと身を寄せ合い、冷めきらない熱を愉しんでいる。互いの肌に唇を落として笑う、貴重で幸福な時間だ。
 こうしてアルバスがくつろいでいられるのは、つい先日「家主が家を空けるから」とゲラートに誘われたからだ。
 アルバスはゲラートの誘いに迷うことなく頷いた。恋人の部屋で、夜通し二人きり。同居人と暮らしている十代の青年にとって、それはほかの何を犠牲にしても手に入れたい時間だった。
 だから、アルバスはこの日のために、なかば強引に弟の同意を勝ち取ったのだ。外泊を申し出たときも、自宅を出発するときも、アバーフォースの態度はお世辞にも快く受け入れてはくれたとはいえなかったが、アルバスにとってそんなことは二の次だ。弟の機嫌はあとでどうとでもなる。そう楽観視して、今はこの何にも代えがたい時間を享受することにしている。
 しかし、ゲラートと裸で触れ合い、そのぬくもりの愛おしさに胸を締め付けられながら、アルバスは頭の片隅で先日の決意について考えていた。
 腹痛の原因が精液にあると結論付けてから、今日が初めての行為だった。つまり、いつまでに処理すれば体調に影響しないのか、実験も実証もできていない。わかっているのは、このまま朝を迎えたら腹を抱えて不快感に顔をしかめた無様な姿を見せることになるということだけだ。それを避けるため、不本意ではあったが、どうやってこの腕の中から抜け出るか、アルバスは考えなければならなかった。
 このままでは眠りに落ちてしまいそうだし、そうなるとゲラートはますます腕をゆるめてくれなさそうだ。
 事後の穏やかな時間を名残惜しく思うが、あとのことを考えるなら今動くしかない。仕方なく、アルバスは「風呂を借りたい」と申し出た。
 恋人を慈しんでいる最中にそんなことを言われたゲラートが、ほんのわずかに顔をしかめる。
「朝でもいいんじゃないか?」
「でもほら、全身べたべたしてるし、万が一バチルダが予定を変更して帰ってきたらまずいだろ?」
「つまり、証拠隠滅したいって?」
「……そういうこと」
 ほんの少しの沈黙あとでアルバスが頷くと、ゲラートはにやりと口角を上げた。いたずらを思いついたときのような表情でアルバスの顔を覗き込み、「仕方ないなあ」なんてわざと大仰に言ってみせる。
 ゲラートがその表情を見せた理由が、アルバスより優位に立った気がしたからなのか、いかに家主を騙しきるか計算し始めたからなのか、アルバスにはわからなかった。しかし、どちらであったとしても構わない。アルバスにとって大事なのは、同意を得て風呂に入ることができる、という点だけだったからだ。
 だが、アルバスがほっと胸を撫で下ろしたのも束の間、目論見はすぐに崩れることになってしまった。床に落ちた下着を拾って身に着けたゲラートが、ベッドを出て立ち上がったのだ。
 起き上がる途中で思わず「え」とこぼれ落ちてしまったアルバスの声を聞きつけ、ゲラートが首を傾げる。そして、こう言い放った。
「一緒に入ればいいだろ?」
 ゲラートの発した声はそうして当然だという響きを含んでおり、アルバスは言葉に詰まってしまった。
 アルバスは汗を流したいのではない。腹の中に残っているゲラートの精液を処理したいのだ。その行為をさっきまで抱き合っていた本人の前で行うのはさすがにためらわれた。
 その、ほんのわずかな時間のためらいがゲラートのまなじりを鋭くさせる。ゲラートの瞳の奥がわずかに冷えたのがアルバスにはわかった。ゲラートはベッドに座るアルバスを見下ろし、手を伸ばして、するりとこめかみを撫でる。そして、両手で頬を包み込んだ。
「何を隠してるの、アルバス?」
「なにも」
 アルバスは決してうろたえたりはしなかった。普段の議論のときと同じようにまっすぐにゲラートを見つめ返したはずだ。それなのに、ゲラートは隠しきれない不穏な空気を全身にまとって、ゆったりと目を細めた。言葉は優しげでも、その瞳の奥には氷のような鋭い光が見えている。
 ゲラートは、もう一度アルバスの頬を指先で撫でる。
「だめだよ、アルバス。俺に隠しごとはしないで」
 断罪するかのような響きに反論しようとアルバスが口を開く。しかし、アルバスが抗議の声を音にするよりも早く、ゲラートが言葉を続けた。
「俺と一緒に風呂に入るのが嫌? それとも、嫌なのはこうしてベッドにいること?」
「まさか! 君といるのが嫌になるなんてありえない」
「じゃあどうして?」
 鋭い言葉が突き刺さり、アルバスは一瞬言葉を飲み込んでしまった。未来を垣間見るという瞳が、アルバスの頭の中を覗こうとしている。
「アルバス……アル、ちゃんと俺に教えて?」
 そう問われながらも、今ゲラートの中に渦巻いているものはなんだろうか、とアルバスは考えていた。
 不信感、怒り、蔑み……可能性はいくらでも想像できたが、真実はわからない。だが、ゲラートが自分にひどく執着しているらしいことだけはアルバスにも伝わっていた。そして、アルバスもまた、目の前の美しい青年を手放すつもりはない。
 事実を口にすることへの気恥ずかしさを抱えながら、脚に絡むシーツをぎゅっと握りしめ、アルバスは小さな声で呟いた。
「…………腹が、痛くなるんだ」
「え?」
「君が、その……出したものを放っておくと、あとで腹が痛くなる……。だからなんとかしないと、と思って……」
 少し視線を落とし、ほんのりと頬を染めて白状するアルバスを見て、ゲラートは大きく、一度だけまばたきをした。
「それで、風呂で一人で処理しようとしてた?」
 そう訊ねられたアルバスがひとつ頷く。すると、みるみるうちに氷のような気配は消え去り、ゲラートの瞳の中は愛しさで満たされた。
 ゲラートはアルバスの顔を上げさせて、おもむろに唇を啄んだ。ちゅ、とかわいらしい音が二人の間に響く。
「ごめん、アルバス。君が体調を崩してるなんて、そんなことになってるって知らなかったんだ。今後は気をつけるよ」
「待って、違うんだ。き、君が、僕の中に出すのは嫌じゃないんだよ。だから、やめないで」
「そうなの?」
 ゲラートはちゅ、ちゅ、と音を立ててキスを続けている。アルバスはその謝罪兼愛情表現を受け止めながら、なんとか自らの望みを叶えようと言葉を紡いだ。
 そうして伝えた「やめないで」というアルバスの希望は、ゲラートにとっても満足いくものだったらしい。急に子供みたいな無邪気な笑顔を見せたかと思うと、アルバスの唇に噛み付いて大人のキスをした。
 アルバスは一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに目を閉じてあたたかい舌を受け入れ始めた。ゲラートがベッドに膝を付いて再び乗り上げたことで、マットがわずかに沈む。
 そのことに気付いたアルバスがゲラートに場所を明け渡そうと腰を浮かせたそのとき、臀部にゲラートの手が伸びた。びくり、とアルバスの肩が跳ねたのを無視してその手が動き、さっきまでペニスを受け入れていた場所を撫でる。
「ゲラート?」
「出さないとまずいんだろ?」
 それだけで、ゲラートが何をしようとしているのかアルバスは理解した。慌てて体を離そうとしたが、いつの間に背中に腕が回っていたのか、抱きしめられていて逃げられない。
 そうやってアルバスがささやかな抵抗を試みている間に、ゲラートの指はあっさりと後孔に沈んでしまった。
「っ、……!」
「痛くない?」
「な、い、ないけど、ゲラート、まって……っ」
「なんで? 出すんだろ?」
 ゲラートはアルバスの耳に吹き込むように囁いた。それだけのことに反応しそうになり、アルバスはぎゅっと唇を噛みしめる。
 なんで、なんて問いの答えは決まっているし、ゲラートだってわかってやっているのだ。アルバスの羞恥心も、敏感になっている粘膜の反応も、すべて。
 それでもなんとか反論してやろうと思っていたのに、アルバスの思惑はすぐさま潰えた。ゲラートの指が体内をかき混ぜるようにぐるりと動いたからだ。行為に慣れ始めた体が反射的に震えて、吐息がこぼれ落ちる。粘性のある何かが下に向かって流れていく感覚に肌が粟立ち、思わずゲラートの首にしがみついた。
 アルバスの耳元でゲラートが小さく、吐息だけで笑う。それはアルバスにしっかりと聞こえていたが、すでに文句を言う余裕はなくなっていた。
 挿し込まれた指によって入口が開かれ、ぽっかりと空いた隙間からあたたかい粘液がこぼれ落ちていく。
 精液が流れ出て内ももを伝うその感覚はまるで粗相しているようで、アルバスの目に涙が滲んだ。羞恥心を堪えきれずにゲラートの肩に額を押し付ける。体を支えている太ももは、膝立ちに近い姿勢のせいでぶるぶると震えている。
「アルバス、力入れないで」
「そんなの、む、無理だ……っ」
 息も絶え絶えといった様子でアルバスは答える。
 その様子にそっと笑みを浮かべたゲラートは、宥めるようにアルバスの背中や腰を撫でた。そうしている間も、生温かい粘液がもう一方のゲラートの手を伝い、シーツの上に落ちていく。
 ゲラートはその感覚に興奮している自分を感じていた。自分の吐き出したものがアルバスの中にあったのだと実感して満たされる。そして、再び体の中に渦巻き始めた欲を隠すことなく、目の前にあるアルバスの肩にやんわりと噛み付いた。
 びく、とアルバスの肩がまた跳ねる。だが、今度跳ねたのは肩だけではなかった。快楽を示すように、腰がわずかに揺れてしまっている。
 アルバスはその反応を押し殺そうとしたが、粘膜に直接触れているゲラートに隠すことなどできるはずがない。
 アルバスの反応に気を良くしたゲラートは、繰り返し肩に歯を立てた。痕は残らない程度の強さで、何度もアルバスの反応を引き出そうとする。そして、アルバスはまんまと体を震わせ続けた。
 そうやって戯れている間に、当初の目的は果たされていた。ゲラートが腸壁を擦るように指を動かしても、目立った粘液はこぼれ落ちてこなくなった。それを確認して、ゲラートが指を引き抜く。
 その瞬間も、アルバスはゲラートの肩口に額を押し付けて涙声で鼻をすすっていた。
「終わったよ、アル……」
 ゲラートは腕の中の恋人に声をかけようとしたが、名前を最後まで呼ぶことはできなかった。顔をあげたアルバスがいきなりゲラートの両肩を掴み、ベッドの上に押し倒したのだ。
 驚いて天井を見上げるゲラートの視界を、アルバスの上半身が覆い隠す。
 アルバスは目元を赤く染め、いまだに、ぐず、と鼻をすすっている。だが、その表情に似合わず、瞳はぎらぎらと鈍く輝いていた。その光の意味を表すように、ペニスはゆるく頭をもたげている。
 そんな状態のアルバスが胴に跨がろうとしていることに気付いたゲラートは、その意図を察してアルバスの腰を両手で支えた。下着を押し上げているペニスが柔らかい臀部に触れたことで、ゲラートの背筋をぞくりと快感が駆け抜ける。
「せっかくかき出し終わったところなのに、いいのかい? また同じことをすることになるよ」
「もう一回やったんだから、あと二回やるのも三回やるのも一緒だよ」
 涙の跡が残る顔で、ほとんど睨むみたいにアルバスがそう言うと、ゲラートは少しだけ目を見開いてから、ひどく楽しそうに笑い始めた。
 アルバスの顔に影を作っている鳶色の髪を撫でつけ、やけに甘いまなざしで大きなブルーの瞳を覗き込む。
「いいね、君のそういうところ大好きだよ、アルバス」
「光栄だ、って言っておけばいいのかい?」
「どうとでも。ほら、早くしないと家主が帰ってくるぞ」
「そうしたら、全部きみがどうにかしてくれるんだろ?」
 ゲラートはそれにははっきりとは答えず、ただ不敵な笑みを浮かべてみせた。
 それを答えだと受け取ったアルバスが上半身を倒していく。二つの肉体が折り重なり、再び上がり始めた体温が混ざる。
 至上の幸福を求めて、アルバスは恋人に口付けた。

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