ゲノムが知ってる *

「体温と進化論」の続きです。ラグナロク後の平和な宇宙船での話。変化する体と、逃げる弟と、捕まえたい兄。
※ロキが両性具有

「ロキを見なかったか?」
食堂で談笑していた女たちに向かって、定型文のようになってしまったセリフを口にする。
この言葉を口にするのは何度目になるのか、もうわからない。
問われた方ももう慣れたもので、すぐに否定の言葉が返ってきた。
礼を言って部屋を後にする。扉が閉まる音を背に、深いため息を吐いた。

弟との追いかけっこが始まってもう半月ほどになる。
ある日を境にロキはあからさまに俺を避けるようになった。
同室だというのに寝るタイミングも変えられ、起きるとロキは部屋を出た後。執務をこなすために部屋には来るが、仕事を終えるとふらりと姿を消し、追いかけようとしても見失ってしまう。
時には伝言ゲームのように「食堂で見ました」「さっき展望室に行かれましたよ」「さっきまで倉庫に」「談話室で」「執務室の方に向かって……」と、民たちの証言を辿って行った結果、ただ船内を一周するだけで終わることもあった。
自室に戻ってようやくロキを見つけたと思ったのにそれが幻影だったときは、さすがに苛立ちが勝りグラスを割ってしまった。
そうやって悪戯混じりにのらりくらりと避けられ、気が付けば半月が過ぎようとしていた。

廊下を歩きながら、隠しきれない焦燥感が胸の奥をじりじりと焼いているのがわかる。
今も倉庫やら展望室やらを覗き、弟の姿を探してきたところだ。だが、やはり見つけることは出来ないまま、確認していないのは今向かっている広場になっている部屋のみ。
こうなってしまった理由はわかっている。
故郷が滅んだ後からそういう関係になった弟を「抱く」と宣言したからだろう。
弟が自分を拒否していた理由がわかって浮かれていたのだ。今は少しだけ後悔している。
追いかけると逃げ出すと知っているのに、わざわざ言葉にするんじゃなかった。
ロキが抱かれる側になるのが初めてだというのなら、心が決まるまで待ってもいいと思っていたのだが、まさかここまであからさまに逃げられることになるとは。
だが見付からなかったものは仕方がない。時間を見つけてまた明日探すことにしようと、そう思い直して自室へと足を向けた。

船内を歩いていると幾度も住人とすれ違う。年齢も性別も、種族さえバラバラの彼らはソーを見つけると礼をしていき、こちらも声をかける。それはこの船の中ではありふれた光景になっていた。
それを何度か繰り返し、今度は談笑する男たちが向かいから歩いてくるのが見えた。彼らも例にもれず礼をし、返事を聞いてから再び歩き出す。
笑顔ですれ違い、集団の最後尾が隣を通り過ぎた瞬間、違和感を感じて真横をすれ違おうとしていた男の腕を掴んだ。
「え?」
と漏らされた声と共に、急に歩みを止められた男が不思議そうに自分の腕を掴んでいる相手の顔を見上げている。
こちらを見上げている金色の髪、茶色の瞳、自分より頭一つ分ほど小さい男。
「あの、ソー様?」
こちらの意図がわからず恐る恐る声をかけてきたが、返答はせずにその姿を確認していると、男の困惑はますます深まるばかりだ。
背後での異変に気付き、すれ違ったばかりの男たちも足を止めてこちらの様子を窺っている。
「どうかしましたか?」
集団から声がかかる。誰もが疑問符を浮かべている中、男の手は掴んだまま集団に向かって笑顔を向ける。
「ああ、大丈夫だ。気にしないでくれ。引き止めてすまなかった」
なんでもないと告げられた男たちはとりあえず気に止めなかったようで、再び一礼し進路へと戻っていった。
この手に捉まっている男には、声をかけることもせずに。
去っていく男たちの様子を見て、疑問は確信に変わっていく。
隣の男は呆然としていたが、異変を悟られないように自分は笑顔で集団を見送る。男たちの背中が見えなくなったところで、廊下の奥をぼんやりと眺める隣の男を予告もせずに持ち上げ、小脇に抱えて歩き出した。
急に両足が宙に浮いた男はバランスをとるように、慌てて手足をばたつかせた。
だが、そんな男の慌てぶりなど予想の範囲内だ。特に気にも止めず廊下を歩いていく。
「ちょっ、あの、ソー様何を!?」
「下手な演技はやめろ。ロキ」
腕の中から聞こえた抗議の声を遮ると、男の動きがぴたりと止まる。その顔には困惑と動揺がありありと浮かんでいた。
屈強な男に片手で腹部だけを抱えられた体勢で、男はなんとか言葉を探そうとしている。
伝えるべき言葉を探している間も歩みは止めず、部屋への距離はどんどん縮まっていく。
それに気付いた男はごくりと唾液を飲み込み、緊張した面持ちでようやく口を開いた。
「あの、ロキ様とは、どういうこと……」
男が震える声でなんとか紡ぎだした言葉は、最後まで続けることは出来なかった。
目線だけでちらりと男の顔を確認し、再び前に向き直って口を開く。
「お前、ロキだろう?」
「そんな、何を根拠に」
「集団に紛れたのは悪くなかったが、こんなに近くを歩くなら香油も変えるべきだったな。匂いが同じだ」
そう告げてやると、それまで困惑ばかりが浮かんでいた男の顔が、すっと表情を失くした。
先程までの慌てぶりが無かったことになったように、静かに自分を抱える男の顔を見上げている。
そして小さく舌打ちをし、無理矢理口角を上げたような、皮肉な笑みを浮かべた。
「それはどうも。ご忠告痛み入るよ、兄上」
そう言った途端、腕の中の男が光を帯びていき、男を抱えていたはずの場所に急に空間が出来る。
「おっと」
抱えていた重みを唐突に失い、危うくバランスを崩しそうになったが、その前に腕からすり抜けようとしていた物体を握り締める。
半ば反射的に掴んだそれは蛇だった。鱗が手から滑り落ちそうになるが、慣れた手つきで首根っこを捕まえて逃がさなかった。
蛇になった弟とは子供の頃から何度も戯れてきたのだから造作もない。
「お前なぁ……往生際が悪いぞ。もう見つかったんだから諦めろ」
追いかけっこは終わりだ。そう言って蛇に変身したロキを抱えなおし、部屋へと向かう。
半月ぶりに見付けた弟だ。ここで離してなるものかと、自然と先程より速度が上がる。
腕の中で蛇はまだ威嚇していたが、しっかりと捕らえられていたため逃げ出すことも出来ず、最後の抵抗と言わんばかりに尾で自分を抱える太い腕を叩いていた。

  *

長い廊下を歩いてようやく室内へ入ると、蛇になった弟を掴んだまま、逃げ出さないように部屋の扉に鍵をかける。
開かないことを確認し、真っ直ぐに向かったのは寝台だった。
寝台の真横にたどり着き、蛇を掴んでいる手を寝台の上にかざす。首を掴まれている蛇の、その細長い体がだらりと宙にぶら下がった。
「ロキ、変身を解け」
それだけ告げると、しばらくの沈黙の後、蛇の体が光を帯びてあっという間に黒髪の男の姿をとる。
ロキはひどく不機嫌そうに、首を掴んだままの手を叩き落とした。そして見せつけるように掴まれていたうなじを撫でさする。
「いくら蛇の姿とはいえ、強く握りすぎだろう。アンタは馬鹿力なんだ。加減しろ」
「そうは言ってもお前、噛むだろう」
「当然だ」
ふんっと鼻を鳴らし、背を向けたまま腕組みをして不機嫌をアピールしてくる弟の姿に苦笑を浮かべる。
自分に抱かれないために逃げ回っていたんだろうに、寝台に乗せられているこの状況をわかっているのだろうか。
いや、この弟のことだから目の前の出来事でいっぱいになり、気付いていないのだろう。とそこまで思い至って、胸の奥で燻っていた火種がじりじりと広がっていく。
当のロキはそんなことを思われているとは露知らず、不機嫌さを撒き散らしたままそこから動く様子はない。
自分の身に何が起こっているのか、どうやって伝えてやろうか。
逃げられている間、俺がどんなに焦がれていたかも。
しばらく考えてからロキの肩を掴み、仰向けに押し倒し、逃げないようにその上に覆いかぶさる。
突然視界が回ったロキは驚いて目を見開き、何をされたかを理解して怒鳴ろうと口を開いた。が、それを阻止する。声を発する前に人差し指で唇を押さえられたロキは、飛び出すはずだった罵声を飲み込んだ。
「お前、なんで逃げ回っていたかはわかっているよな?」
ぎしり、と寝台を軋ませ真上からそう問いかけるが、ロキは無言を貫き、注がれる視線から逃れるように見上げることをやめてしまう。
ようやく掴まえたというのに更に逃げようとする態度に、抑えようとしていたものが少しずつ殻を破ろうとしているのがわかる。
たがそれを無視して頬に手を添えて再び上を向かせ、視線を合わせた。
肉体だけでなく問答からも逃す気はないらしいと悟ったロキは、小さく息を吐いて口を開いた。
「……兄上が、覚悟をしろなどと言ったからだ」
ぼそりと吐き出されたそれに、やはりなと納得し、同時にため息を吐く。
その音を聞き取ったロキは、ソーの身体の下で小さく震えた。その瞳には拒絶だけではなく、ほんの少しの不安も見て取れる。
どうやらこの弟は弟で思うところがあるらしい。
ロキの反応を探りながら話を進めていく。ほんの少し、仕返しも込めて。
「そうだな」
肯定の言葉がロキの耳に届くのと同時に、それまで頬に触れていた手をゆっくりと離していく。
「すまないが、あれは撤回する」
続けられた否定の言葉に、ロキの翡翠の瞳が見開かれた。
動揺と不安がその瞳を支配し、ゆらゆらと揺れながらこちらを見上げる。何か言おうとして上手くいかず、その唇は数度動かされた後、ぎゅっと引き結ばれて動くことをやめた。
そんなに胸を痛めるのなら、こんなことをしなければいいものを。そう思うが、それをしてしまうのがロキであり、またそこも可愛いところでもあるのだから手に負えない。
結局自分も甘いのだ。
不安を隠しきれないロキを真上から見下ろし、新たな宣言をするために口を開く。
「もう待たない」
「……は?」
「お前の覚悟が決まるまで待とうと思っていたが、やめだ。待っている間、全く触れられないんじゃ意味がない」
突然の宣言にロキはぽかんと口を開けて、間抜けとも言えるような顔でこちらを見上げていた。
この関係自体を否定されると思っていたのだろうが、そんな発想は微塵もない。
全く、いつになったらこの気持ちは信用されるのかと、ため息がこぼれそうになるのをなんとか堪える。
だがそんなこととは知らないロキは、予想とは全く違う展開を迎えたことの衝撃が大きかったのか、ただ見上げることしか出来なくなってしまった。
そんなにわからないのなら、わからせてやる。
そう思い、動きを止めてしまったロキのことなどお構いなしに、開きっぱなしになっていた薄い唇に自分の唇を重ねる。ずっと避けられていたために、口付け自体が久しぶりのことで、最後に口付けた時よりも甘く感じた。
一瞬引きそうになった顎を押さえ込み、何度も口付けを重ねていく。
心構えもないうちに口付けられ初めは僅かな抵抗を見せていたが、ロキも段々と与えられる唇に夢中になっていき、最後には自ら目の前の首に手を伸ばして温もりを享受していた。
細長い指でうなじを撫でられ、微かな快感が背筋を走る。
二人とも呼吸が上がってきたところで、ようやく解放し、鼻先がぶつかる距離で見つめ合い、熱い息を零す。
ロキの瞳を覗き込み、そこに宿り始めた熱を見つけて微かに笑みを浮かべた。
そしてそのまま口付けを再開する。音を立てながら何度も唇を吸い上げ、その隙間から舌をねじ込み口内を堪能する。
押し戻すように伸びてきた舌を絡めとり、歯も使って愛撫しているとロキはすっかりそれに夢中になっているようだった。
短くなった髪を撫でる指先に力が込められていったことでロキにも求められているのだと感じられ、思わず笑みがこぼれた。口付けはそのままにロキの身体に手を這わせる。
顎から首筋、鎖骨を通り過ぎ、胸、腹部と順になぞっていく。手が布越しに動くたび、ロキの身体は震えた。
塞いだ唇からは抑えきれなくなった呼吸が漏れ聞こえている。
段々と高まっていくロキの反応に下腹が熱を帯びていく。更に先に進もうと服の繋ぎ目をいじり出した時、それまで絡み合う舌に集中していたロキの目が開かれ、慌てたようにその手を掴んで止めた。
それまでと違う反応に思わず手を止める。
唾液が伝う唇をゆっくりと離し、荒くなった呼吸を整えながら何がまずかったのか考えてみるが、全く答えは出てこない。
お互いに緩やかな階段を上っていたはずだ。確かにロキも感じていると思ったのに。
ロキの言葉を待ってみるが、赤くなった顔で呼吸を整え終わる頃になってもロキからはなんの言葉もなかった。
止められた意味がわからず再び服を脱がせるために手を動かし始めたところで、ロキがその手をぎゅっと握った。
「ま、待ってくれ兄上……やっぱりやめよう」
一瞬、何を言われたのかわからなかった。
それだけ言い切ったロキが全く目を合わせようとしないところを見ると、気まずさも感じているのだろう。
本当ならば優しく理由を聞いてやるべきなのかもしれないが、逃げられ続けて触れることを許されなかった今、弟の様子を気にしてやれるほどの余裕はなかった。上がった体温がそのまま苛立ちへと変化する。
「嫌だ。やめない」
「ソー!」
「月のものは終わったんだろう?」
「それは、そうだが」
「ならやめない。もう散々待った」
反論出来ずにいるロキを無視して、今度はその首に顔を埋めて舌を這わせた。ロキは息を飲み、肌に触れるために布を取り払おうとしている手を押し戻す。
繰り返される抵抗に苛立ちとも悲しみともつかないものが胸を占めていく。
さっきまで見ないようにしていたものと混ざり合い、ただ胸が痛かった。それを堪えようとして、険しい顔付きになっていくのが自分でもわかる。
埋めていた首から顔を離し再びロキを見下ろすと、ロキは微かに怯えを滲ませながらも正面から睨み付けてくる。
ああ、そんな顔をさせたい訳じゃない。
胸の痛みに罪悪感という新たな要素が追加され、ますます堪えきれない何かになって溢れ出してしまいそうだった。
それが暴力的な形を取らないように、呼吸と共になんとか吐き出す。
「そんなに嫌か」
「……?」
「俺に触れられるのは、そんなに嫌だったか」
「ソー……?」
「いや、いいんだ。お前がどうしても嫌だと言うのなら、もうやめよう」
胸を刺したものが身体中を駆け巡っていたが、それが噴き出す前に飲み込んだ。
愛しているから繋がりたかったのだ。無理矢理犯すことに意味はない。
怯えが消えた代わりに戸惑いが浮かび上がるその頬を撫でてやる。一瞬びくりと反応はあったが、拒絶はされないことに安堵した。
今後、そういう触れ方は出来ないのかもしれないと思うと寂しくはあったが、ロキの隣に並べないことの方がずっと辛い。
「すまなかったな」
安心させるように無理に笑顔を作り、頬から手を離し上体を起こすために体勢を変えようとして、不意にバランスを崩した。
ロキの手が、離れようとした腕を掴んでいたからだ。
せっかく解放されるところだったというのに、ロキの行動の意図がわからず、今度はこちらが困惑する番だった。
「ロキ?」
「……」
声をかけてみるが返事がない。きつく握られた腕にロキの指先が食い込んでいく。
ロキは何かを迷い、その視線はシーツの上を行ったり来たり彷徨って落ち着きがなかった。
何が引っ掛かっているのかはわからないが、まずは安心させてやろうと力んでいるロキの手をぽんぽんと叩く。兄として、余裕を持って。
「大丈夫だ。もうこんな無茶なことはしない」
だから安心しろ。と、そう続けようとしたところで、ロキにきつく睨まれた。
ますます訳がわからない。お前が嫌だと言ったからやめたのに。
落ち着かせていた苛立ちが再燃しそうになった時、こちらを見据えていた視線がふと和らいだのがわかった。
それに合わせて腕の力も緩められる。
「違う。そうじゃない」
それを言うことに抵抗があるのか、少しつっかえながらもロキは声を発した。
するすると指が離れていき、捕まれていた腕が解放される。
ゆっくりと仰向けになっていた身体を起こしたその顔からは、先程までの厳しさは消えていた。
慎重に言葉を選んでいるロキを静かに待つ。
「兄上に触られるのが嫌だとか、そういうことじゃない。ただ……」
「ただ?」
ロキは逡巡する。視線が逸れて奥歯を噛みしめるように口元に力が入り、その続きを言うのには覚悟が必要なのだということが見て取れた。
伏せられた瞼が持ち上げられ、しっかりと視線が交差する。
「兄上に抱かれてもいい。だが、私のことを女扱いするな」
閨事の話の割には随分と尊大な態度だったが、どちらかと言えば普段の調子を取り戻したと言った方がいいだろう。
それに、正直それどころではなかった。
「お前、今……」
「言った。おい、二度は言わせるなよ」
ロキは眉間に皺を寄せて言葉を遮る。どうやら聞き間違いではなかったらしいが、それを認識した途端、驚きと共に先程胸の中で沈んだものが一気に上昇していくのが自分自身でわかった。
今すぐにでも押し倒してしまいたかったが、まずは内容を確認するために衝動を抑え込む。
自然と動き出そうとしていた両手が中途半端に広げられている。ロキはそれを一瞥し、訝しげに顔をしかめた。
自分の欲望を全て暴かれているような気分になり、途端にそれが恥ずかしくなって手を下す。今まで様々な女の相手をしてきたというのに、この体たらくだ。情けない。
それを誤魔化すように咳ばらいをし、ロキと改めて向き合う。
「お前は俺の弟だ。女のように思ったことはない」
しっかりと目を見て、誠意を込めて宣言する。
だがロキはお気に召さなかったようだ。ふん、と息を漏らしこちらを見てくる視線は微かに蔑みが含まれているような気がした。
「嘘つきめ」
「嘘じゃない」
「女を見るような目で私を見ていた」
「……それは仕方ないだろう」
「ずっと庇護対象だったようだし」
「別に女扱いじゃない」
「じゃあなんだ」
「弟扱いだ」
「そうか。さんざん魔術など、か弱い女のようだと」
「それは悪かった」
昔のことを持ち出されるとぐうの音も出ない。
若かった。相手のことを省みず、酷いことを言った。そればかりはどうにもならず、ただロキの気が済むのを待つ。
しばらくこちらを観察していたロキは、それ以上反論しようとしない俺に「いいだろう」と呟くと、胸ぐらを掴んで俺を寝台に引き倒した。
ぐるりと視界がまわる。目の前に広がった天井に驚いていると、ロキが俺の腰を跨いで見下ろしている。先程までと立場が逆転した。
ロキはお返しとばかりに顔の横に手をついて、愉快そうに笑っている。
「約束出来るなら、アンタのものになってやってもいい」
体温の低い指が頬に添えられる。そして挑発するように顎をくすぐられた。
「さあ、どうする?」
その表情には、否定されるなどとは微塵も思っていない余裕があった。ニヤニヤと嫌みにすら見えそうな笑み。
しかし、それとは裏腹に、触れられている指先は微かに震えていた。
緊張なのか、恐怖なのかはわからないが、きっとその心臓は激しく脈打っているのだろう。
今まで身体のことは隠してきたというのだから当然だ。
どうしようもなく抱き締めたくなるのを我慢して、腕を伸ばしてうねる黒髪を掻き分ける。
「約束する」
両手で首筋を捉えて引き寄せると、抵抗されることなく素直に顔が下りてくる。
唇を合わせると、治まっていた熱が一気に戻ってきた。可愛らしい口付けはほんの一瞬で、すぐに貪り合うような激しさに変わる。
唇は湿り気を帯び、離れる度に唾液が伝う。ロキの長い髪が頬を掠めてくすぐったい。
互いの呼吸音と水音しか聞こえない中、薄く開かれた翡翠の瞳は段々と潤み、触れているうなじが熱を帯びていくのを感じていた。
青白い頬が赤みを帯びていくのが愛おしくて、更に口付けを深いものに変えていく。
舌を吸い、絡ませ、少しの隙間もないように。
そうしているうちに伸し掛かっている身体から少しずつ力が抜けていき、上体を支えている腕は微かに震えていた。
唇を解放してやると、起き上がり乱れた髪をかき上げる。
口の端から零れた唾液をすくい上げるために赤い舌が蠢くのを見て、再び食いつきたくなるのをなんとか堪えて服に手をかけた。
布の上から身体のラインをなぞり、留め具を外していく。
緩んだところで一息で取り払うと、白い肌が眼前に広がる。幼いころから何度も見てきた、見慣れたはずの弟の肌はきめ細かく、程よい筋肉を纏っていて、明らかに違う意味を持って見えた。
誘われるように臍から脇腹へとゆっくりと手を這わせて、その滑らかな肌を堪能する。
「なんだ兄上、珍しいものでもないだろう」
「俺にとっては貴重だ」
くすぐったいのか、ロキは笑いを堪えきれないようだ。皮膚をなぞる度に笑い声を漏らすロキを咎めるように、胸の中心で赤く色づいた突起を軽くつねる。
すると、肩がびくりと跳ねた。
睨み付けられているが、気にせず今度は優しく撫でる。そうしていると、段々とそこは硬さを持って存在を主張し始めた。
「ソー、やめろ。っそんなところ……」
乱れそうになる呼吸をなんとか抑えながら訴えるロキを無視して、背中に手を回し上半身を支えて押し倒す。
寝台が音を立てて軋み、黒髪がシーツに散らばった。
「やっぱり動かないのは性に合わないな」
見下ろして笑いかけると、いきなり上下を入れ替えられたロキは些か不満そうだったので、宥めるために再び口付ける。
熱くなった口内を蹂躙しながら、手を動かすことも忘れない。さっきまで撫でていた突起は腫れ上がり、軽く爪を立ててやると組み敷いた腰が揺れた。
刺激に反応するロキの足が下腹部に触れて、腰がぐっと重くなる。
唇を放し、乱れた呼吸はそのままに上着を脱ぎ捨てる。潤んだ瞳に見上げられているだけで、身体が熱くなった。
もう一度唇に噛みつき、今度はすぐに放すと首筋を舐め上げる。肌の匂いと香油の香りが混ざり合って脳を揺さぶる。触れた肌の心地よさにくらくらした。
そのまま身体をずらし、酸素を求めて上下する胸に口付け、突起を口に含んだ。
「あっ……」
ロキの口から小さな声が漏れる。
硬くなったそれを舌で押しつぶすように舐め、吸い上げていると、短くなった髪をぐっと後ろに引っ張られた。
痛みを感じてそのまま大人しく口を離す。
「何するんだ。痛いぞ」
「っ、女扱いするなと、言った……っ」
荒い呼吸のまま、赤く尖った胸元を濡らして睨み付ける姿はいっそ扇情的で、ごくりと喉が鳴ってしまう。
ぷくりと腫れた突起を見せ付けられた状態で訴えられても、全く説得力がない。
「女扱いなどしてない」
「ならなぜ胸をいじる!」
「愛撫に男も女もないだろう」
「そんなこと、あっ、おい、っ兄上……!」
もう片方の突起も口に含んでやると、大げさなくらいロキの身体が跳ねた。甘噛みしながら腹筋を撫でると、引き離そうと額を押さえている手が震え始める。
そのまま胸から腹筋まで舌でなぞり、辿り着いた先で、ロキの性器は窮屈そうに布を押し上げていた。布越しに撫でてやると、そこは確かに硬さを持っているのがわかる。
与えられた刺激に、物欲しそうに腰が揺れる。
起き上がって下着ごと布をロキの足から抜き取った。そこはもうすでに濡れていて、下着を湿らせている。
それは不思議な光景だった。
勃ち上がった陰茎と陰嚢の先で、充血した割れ目から愛液が滲んでいる。思わず手を伸ばしてそっと縁をなぞると、とろりと粘りのある液体が零れ落ちた。その液体が皮膚を伝い落ちる様を見て、下半身に一気に熱が集まる。布に抑えられて苦しい。
「じろじろ、見るな……っ」
顔を赤く染めたロキが眉を寄せて抗議する。
一度目を合わせ、再びそこに指を添えると、溢れ出た愛液が指を濡らした。
「お前……見るなという方が無理だろう……」
「……っ!」
見せ付けるように手を持ち上げると、自分の身体の状態に気が付いたロキの頬がますます赤くなる。
逸らされてしまった顔に手を添えて口付けながら、もう片方の手で陰茎を握り混むと、手の中のそれがひくりと震えた。
裏筋をなぞり軽く擦ってやると、すぐに先端から先走りの液が流れ出て、にちゃにちゃと音をたて始める。
快感にロキの足が震えている。
すがるように首に腕を回され、入り込んできた舌を歯で愛撫してやりながら手を動かす速度を早くすると、それに合わせるようにロキの腰がゆるゆると揺れる。
「っ兄上……も、でる……っ」
短い吐息の合間になんとか紡がれた訴えに頷き、握り混んだ陰茎の先端を抉ってやると、身体を震わせながら呆気なく射精した。
勢いよく飛び出した白濁の液が、ロキの震える胸から腹部まで汚す。
力の抜けた下肢が開かれ、局部が露になると、そこはしとどに濡れてシーツの色を変えていた。余りにも卑猥な光景に目を奪われる。愛液は臀部まで流れていた。
それを掬い上げて、柔い尻に塗り込む。敏感な割れ目から新たなぬめりが零れるのを見て、つい苦笑が浮かんでしまう。
「お前、これでよく女を抱けたな……」
「うる、さいっ……女相手にっ、こんなになったことは、ぁ、っない……!」
乱れた呼吸の合間に吐き出された言葉が時間を止めた。
言葉の意味を理解した途端に顔がかっと熱くなる。
ロキ自身も言い終わってから自分が何を言ったのかようやく理解したようで、慌てて手で口を覆い隠しているが、もう遅い。
その瞳から滲む動揺も、赤く染まった耳もこれっぽっちも隠せていない。
「ロキ……」
少しでも視線から逃げようと真っ赤な顔を背けたロキは、何も言えずにただシーツを見つめている。
「ロキ」
返事をしようとしないロキの顔をこちらに向かせて、逃げ惑う瞳を正面から捉える。
「お前が“こう”なるのは俺にだけか」
「……!や、ぁっ」
そう言いながら濡れた入り口に指を這わせると、一瞬逃げるように腰が跳ねた。
だがそれとは裏腹に、柔らかな肉は割れ目を往復する指に吸い付こうとしている。指を食む肉の温かさにその先を連想してしまい、つい熱い息が漏れた。
ああ、早くこの熱に包まれたい。
入り口を刺激してやるだけで、ぐちゅ、と湿った音が耳に届く。挿入には至らないギリギリのところで指を動かしていると、焦れたロキの腰がもどかしそうに揺れ始めた。
「さっさと、っ挿れたら、いいだろう……っ」
睨み付けてくる瞳には羞恥が浮かんでいる。潤んだ瞳で睨んでも男を煽るだけだとわからないのだろうか。
普段よりも上ずった声に、背筋がぞくりと粟立つ。
「処女相手にそんな酷なことはしない」
「誰がっ」
「ここに誰かを受け入れるのは初めてなんだろう?」
「っ……」
「なら、言うことは聞いておけ」
今すぐに全て食らい尽くしてしまいたくなるのを堪えて、ゆっくりと指を挿入した。
指を覆う壁は熱く、放すまいとするように絡みついてくる。広げられた脚にぎゅっと力が入ってシーツを引き寄せた。
空いている手で膝裏を持って脚を支え、白いふくらはぎに口付ける。
「きついな……痛くはないか?」
「へいきだ……ん……っ」
狭い膣を押し広げながら往復させていると、中から溢れ出す液の量が増えていき、少し動かすだけで卑猥な音がする。
それに合わせてロキの呼吸も荒くなっていき、堪えきれない喘ぎが漏れ始めていた。ほぐれてきたのを確認して、指の動きを大きくすると内腿が震える。
射精して間もない男性器も硬さを取り戻していた。
快感に震え、汗ばんだ肌が手のひらに吸い付いてくるようだ。
挿入に向けて指の本数を増やすと、蕩け始めたそこは簡単に二本目を受け入れた。
潤んだ肉壁がきゅうっと指を締め付ける感触に思わず喉が鳴ってしまう。揺れる腰の動きに合わせて中を激しくかき混ぜると、薄く開いた唇から嬌声が響いて鼓膜をくすぐる。
「あ、やっ……兄上、あにうえ、っやぁ」
「っどうした?」
「アっや、だめだっ……っぬい、て、……っ」
「こんなに締め付けてくるのにか?」
「イきそ、だからっ……あぁ、んっ」
「ああ、いいぞ……っ」
「っえ?あ、だめ、だめだ、ぁっや、いや、いきたくな……っ、ア、あ……!」
声にならない声をあげてロキは達した。
全身が痙攣し、挿し込んだ指をぎゅうぎゅうと締め付けてくる。その媚態に鼓動は激しく脈打ち、性器はきつく張り詰めてボトムを押し上げていた。額を汗が伝う。
しばらく力んだ後、全身から力が抜けてぼんやりと天井を見上げているロキの太腿を撫でていると、震える足で腰を蹴られた。
そのまま力なくシーツの上に投げ出された足をさすりながら顔を見ると、荒い呼吸のまま精いっぱい眉根を寄せている。
「っいやだと、言ったのに……!」
「でも悦さそうだった」
「そういう問題じゃ……っ」
「なあ、ロキ」
声を荒げるのを遮って熱くなった頬を撫でる。
「女の快楽はそんなに違うものか?」
そう囁くと、ロキはその大きな瞳を見開き、ぎゅっと唇を噛みしめた。
頬を撫でていた手を叩かれ、そっぽを向いてしまったロキの顔をもう一度捉えて深く口付ける。しばらく抵抗されていたが、段々と力が抜けて諦めたように腕が首に回された。
ゆっくりと目を開けると、濡れて光る翡翠の瞳と視線がぶつかる。
唇を離し、額同士をくっつけるとロキは甘えるようにすり寄った。
「ロキ、もう挿れたい……」
「……女のようにされるのは嫌だ」
「お前を女だとは思ってない」
「だが……」
「それに、もしお前に女性器が無かったとしても、俺は同じように抱くぞ」
ちゅっと唇を啄んで笑いかけると、ロキは呆れたように笑ってうなじを撫でる。
「仕方ないな、兄上は」
そう呟いて合わさった唇は、いつになく優しく舌を食んだ。
もう一度舌を絡めてから離れて、下半身を覆っていた邪魔な布を脱ぎ捨てる。
反り返り硬くなった自身の先端を、ぬるつく割れ目に押し当てた。ゆっくりと擦り付けると、狭いそこがひくりと収縮する。
「挿れるぞ」
震える両足を抱えて、ゆっくりと膣内へと埋め込んでいく。
そこは狭く、熱く、潤っていて、直接的な快感となって脳を揺さぶる。
すぐに激しく突き上げたくなるのを我慢して、まずは奥まで辿り着いた。
抱えた膝に口付けて、力が抜けるのを待つ。
動かさなくてもそこは挿入されたものの形を確かめるように蠢き、奥へ奥へと誘っているようだ。
性器を咥え込み、拡がって充血しているそこを見ているだけで、身体中の熱が高まり脳が沸騰してしまいそうになる。丁寧に抱いてやりたいと思いながら、同時にぐちゃぐちゃになるまで抱き潰してしまいたいとも思っている。
ただの獣に成り下がらないように、理性を捕まえているのに必死だった。
下半身に支配されないように、呼吸を繰り返す。
ロキの力が抜けてきたところを見計らって、緩やかな抽挿を開始した。
腰を動かす度に、ぐち、ぐちゅ、といやらしく音を立てて胎内が蠢く。自然と腰の動きが速くなり、ストロークも長くなる。
突き上げるとロキからあえかな声が上がり、それに追い立てられて余計に腰が重くなっていく。
「ロキっ、ロキ……っ」
「や、んんっあ、ア、ぁ……っ」
抽挿が激しくなると翡翠の瞳はどこか虚ろになり、開きっぱなしになった口からは唾液が零れた。
「っ、つらくないか?」
「あっ気持ちいい、や、いやだ……っん、きもちい、っあ、やぁ、っ」
「何か嫌なんだ?」
「あ、ンっ……きもち、いいのっ、いやだ……っ」
子供のようにふるふると頭を横に振ったせいで、黒髪がシーツに広がった。
それでも逃がしきれない快感に涙が浮かんでいる。
脚を下ろし、両手で腰を掴んで揺さぶると、ロキの細長い指がシーツをきつく握り込む。
「なんで、嫌なんだ?」
腰の動きは止めずにそう問うと、ロキは逡巡して視線をさ迷わせた後、腕で顔を隠してしまった。
「だって、こんな……っ」
「ん?」
「こんなっ、からだが、っ、勝手に、反応して……ぁ、月のものも、きてっ……こんなこと、っあ、なかった、のに……!」
目元を隠されているせいでロキの表情は窺い知れない。
途切れながらも必死に言葉を紡いだ唇は震えている。
大事なことを言っている気がするのに、顔が見えないのが嫌で、上半身を近付けて目元を覆う腕を掴んで外し、自分の肩に回してやる。
するとそこからは蕩け切った顔が現れた。
ぐっと奥を抉る切っ先の硬度が増す。思い切り打ち込むと、肩に回された指の先が皮膚に食い込んた。その僅かな痛みさえもが快感に変わり、体温を上げる。
「あにうえっ、あにうえ……っ」
「っなんだ……?」
「こわい……っもう、わたしをっ……、変えないでくれ……!」
その言葉を理解した瞬間、動きが止まった。そして心臓が跳ねて、顔が急激に熱くなる。
思わず叫び出したいような衝動に駆られて、手で口を覆い隠した。
徐々にこれまでのことが頭の中で繋がっていく。
急に始まった月のものも、それまで反応しなかった女性器が動き始めたのも、俺と愛し合うようになったことでロキの身体が無意識に変化したのだとしたら?
これ以上の愛情表現があるだろうか。
合点がいってしまった。それに気付いたから逃げていたのか。
どうしようもない愛しさが溢れ、覆いかぶさって抱きしめる。
「あー……、こんな殺し文句は聞いたことがないぞ」
「っなに……?」
「わからなくていい」
「んん……っ」
首筋に噛みつき、吸い上げて痕を残す。白い肌に浮かんだ赤い印に気をよくして、鎖骨にも同じものを散らした。
それと一緒に腰の動きも再開し、室内には再び喘ぎ声が満ちていく。
膣内をゆすり上げると、腹筋に挟まれた陰茎も擦られてロキの声は艶を増した。
腕の中で快楽に溺れている弟の全てを食らい尽くしてしまいたいと、もうそれしか考えられなくなってきている。
余すところなく手に入れたい。
「ロキっ、中に出すぞ」
「や、あぁ、っ孕むかも、しれないから、ぁ、!」
「それこそ、願ったり叶ったり、だなっ」
「ばか、っあ、ァ、あーー……っ」
一際強く腰を押し付けて、深いところで吐精した。
吐き出している間も軽くゆすり続けていると、達したらしい肉壁が搾り取るように絡みつき、子宮口が吸い付いてくる。
また動き出したくなったが誘惑を断ち切って性器を抜き取り、張り詰めたままのロキの陰茎を手で擦ってやるといくらか薄くなった精液を吐き出した。
もうどの感覚を拾っていいのかわからないのか、ロキはぼんやりと天井を見上げている。
乱れた呼吸でぐったりと寝台に沈んでいるロキの隣に横になり、抱き寄せて口付ける。
唇から、頬、瞼と順番に唇で触れていき、乱れた髪を撫でていると段々と目の焦点が戻ってきた。
「最初から中に出すとはな……」
喘ぎ続けていた声は少しばかり嗄れていた。薄い唇から呆れたようにため息が漏れる。
「本当に孕んだらどうするつもりだ」
「孕めるのか?」
「さあ?わからないな」
いくらか調子を取り戻したロキは、片方だけ口角を上げてみせた。
向かい合い、汗で湿った髭を細い指先がいじる。
「全く……こんなやり方をしていて、兄上に子がいないのは奇跡だな」
「何を言ってる?今までこんなことはしたことがないぞ」
「は?」
「お前だけだ」
まだ汗の名残でしっとりと湿った腰に手を回し、背骨から臀部を撫でていく。
訝し気に向けられた視線を受け止めて、逸らすことなく見返した。
「お前に子が産めたら、と思ってな」
「……正気か?」
「俺は大真面目だ」
「巨人の子だぞ」
「なんの問題がある?今やこの船にはあらゆる種族の民が暮らしてる。アスガーディアンとヨトゥンの混血が一人増えるだけだ」
「人の形をしていないかもしれないぞ」
「お前の子だ。どんなかたちで生まれてきても美しいに決まってる」
そう言い切って額に唇を寄せる。
ロキは微かに震えていた。頬は赤く染まり、瞳の表面を水分が覆っていく。
鼻が触れ合いそうな距離でしっかりとその揺れる瞳を見つめて、その奥の答えを探していると、唐突にロキの腕が振り下ろされた。
叩き付けられそうになった枕をかわして取り上げ、床へと放り投げる。
代わりにロキの顔を自分の胸に押し付けて、揺れる翡翠から零れた涙を隠し、両腕できつく抱きしめた。

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