お題で140字SS
【指先】 2021/11/1
少し乾いていて、少し冷えている褐色の手。その指先は僕の頬を掠めるだけで触れることはなかった。
「何を考えてる?」
今、僕を見上げ、熱を持った手のひらで頬を撫でている男が、彼と同じ瞳で問いかける。それに答えようとして、初めて彼が何を考えていたのかわかった気がした。
「君のことだよ」
【ネクタイ】 2021/11/1
どんな鍵でも開けてしまう指が艶やかな布の上を滑る。男の首元を締め付けている紐の結び目に指をかけて、ニールはうっそりと笑みを浮かべている。
「そんなに楽しいか?」
「もちろん。男のロマンだ」
この笑顔を見ているのはニールが選んだネクタイを身につけているときだと気が付いて男も笑った。
【手料理】 2021/11/16
「何が食べたい?」
隣を歩く男の声を聞いて、僕の脳はある食卓の風景を鮮明に蘇らせた。
ボウルに山のように盛られた野菜。丁寧に焼かれた肉の香りに混じる微かなコゲの匂い。「失敗した」と恥ずかしそうに笑う彼の声。
僕は本音を飲み込んで笑いかけ、心の中で呟いた。
『君の手料理がたべたい』