あの夏のゲラアルらくがき。ただれてる。フェ…が好きなアルと嫉妬心ごりごりのゲラのはなし。
指先が触れ合って、互いの体温が混ざり合って、吐息が重なる。セックスとはこうして始まるものなのだと知ったのは少し前のことだ。その相手であるアルバスはホグワーツきっての優等生だというからさぞやお堅いのだろうと思っていたのだが、実際にその瞬間を迎えたとき、率先してリードしたのはアルバスだった。
アルバスは自由に、奔放に快楽を享受する。そうなるに至った経緯も過去も聞いたことはないけれど、相手がいたことだけは明白だった。誰か、知らない、別の男が――。
考えただけでも吐き気がするほどはらわたが煮えくり返る。そんな、顔も知らない男への怒りを抱えながらも、同時に恩恵にあずかっている。そんな矛盾を、僕はいつも抱えている。
繰り返される微かな水音と吐息が鼓膜に響く。うららかな昼下がりにはまったく似合わない音だがそれが心地いい。ところどころに本が積まれた、しわだらけのベッドの上で隣り合って座り、僕とアルバスは互いの口内を貪っていた。
最初に触れ合ったタイミングでカーテンは閉めた。ドアにも鍵をかけて、さらに人が入ってこられないように細工した。ほんの少し痛んだ本のにおいで満ちた、あたたかい部屋でふたりきり。今この瞬間、ここは僕らだけの場所だ。
片手は頬に添えて、もう片方の手はベッドに置かれたアルバスの手に重ねて指を絡める。すると、触れた指先がぴくりと跳ねていっそう吐息に熱がこもった。唾液がこぼれるのも構わず何度も舌を吸い、絡めて、唇を柔く食む。
やわらかな唇も、キスの合間にかかる吐息も、何もかもが心地よくて頭の奥から痺れていく気がする。こんな感覚は初めてだった。こんなふうに感じるのはアルバスだけだ。こんな、にんげんの体温が心地いいだなんて、そんなことは知らなかった。にんげんもどうぶつも誰もが等しく命あるというだけの物体に過ぎない。アルバスだけが、あたたかくうつくしい。
「ゲラート……」
キスに夢中になっているさなか、囁くように名前を呼ばれて余計に体温が上がった。そこにわずかにうまれた隙間が惜しくて唇を寄せようとした――ところで、アルバスがそっと肩を押してそれを留めた。
濡れた口元を舌で舐め取り首を傾げる僕の瞳を、アルバスの熱っぽい瞳が間近で覗き込んでいる。
「……舐めたい」
「なんだって?」
「きみの、コレ……僕に舐めさせてほしい」
アルバスの指先が股間で布を押し上げている僕のペニスをそっと撫でる。次いで、上目遣いで囁く赤い舌が唇の隙間からちらりと覗く。それに目を奪われていると自覚したときには、好奇心と独占欲と極上のおねだりに負けて頷いていた。
同意を取り付けたアルバスは嬉々とした様子で僕をベッドのふちに座らせて、自分は床に膝をついた。自分の服は崩さずに僕のズボンと下着をずらし、上向いたものをうっとりと見つめる。
それだけで、静かに撫でられただけで、腰の奥をぞわりとしたものが駆けていって思わず息を吐いた。その瞬間を待っていたかのようにアルバスは顔を近付けていき、ペニスの先端を口に含んだ。たっぷりの唾液で濡れた舌が優しく皮膚の上を這って凹凸をくすぐる。
「……っ、アル……」
名前を呼んで、こめかみを指の背で撫でると、アルバスは甘えるみたいにすり寄った。そうしたことで微妙に角度が変わり、それがまた刺激になって息を吞む。
僕の腰が小さく跳ねるたびにアルバスは嬉しそうに目を細めて、より熱心に舌を動かす。初めはそうして先端だけを含んでやわやわと刺激されていたが、間もなく深く咥え込まれた。
アルバスは目を閉じて、ぐじゅぐじゅと音を立てながら唇と舌を使って敏感なところを刺激していく。その技巧は的確で抗いようがなく、ペニスは質量を増していくばかりだ。舌を尖らせて裏筋をなぞったかと思うと唇でやわらかく扱かれる。上顎に先端が擦れると口内の粘膜がきゅう、と締まるのがたまらない。上気した頬と時折覗く真っ赤な舌にさらに煽られて腰を押し付けると、もぞりとアルバスが居住まいを正した。
苦しかっただろうかと心配したのは一瞬のことで、すぐにそうではないのだと気が付いた。股座に陣取って奉仕するばかりだというのに、アルバスのペニスもしっかりと頭をもたげて布を押し上げていて、そのうえ腰が揺れている。
――口以外どこも触られてすらいないのに感じているのか。
それを理解した途端にカッと頭に血が上った。知りもしない誰かにもこうしたことがあるんだろう。いや、その男が〝こうするものだ〟と教えたのかもしれない。どちらにせよ、口だけで快感をひろえるだけの経験をしたのだ。
どうしようもない嫉妬心に脳を焼かれて目の前が真っ赤になったが、こんなことで度量がないと思われてはたまらないとどうにかこうにか抑え込んで、手を頭に添えてアルバスの顔を上げさせる。
不思議そうにしながらペニスから口を離したアルバスは、普段の溌剌とした姿からは考えられないようなだらしのない、欲にまみれた顔をしていた。口から顎まで唾液と体液で汚し、熱に侵され潤んだ瞳でこちらを見上げる。
ぞくり、と得体の知れないものが胸の内を支配していく。溜飲が下がるとはこういうことをいうのだろう。今は、今この瞬間だけは、アルバスは間違いなく僕だけのものなのだ。アルバスが望むのは僕だけ。アルバスから清廉さを奪えるのも僕だけ。
溢れ出る高揚感のままに上体を屈めて両手で頬を包み込み、奪うみたいに口付けた。んぅ、と少し苦しげな、でもその中に確かな快楽が混じった声が口内にこだまする。舌を絡めて吸ってしごいて、それから解放すると、アルバスは頬から首までを真っ赤に染めて小さく震えていた。
「っはぁ……アル、もうイっていい?」
こくこくと何度も頷いて、アルバスは再びペニスを口に含んだ。深く深く、喉の近くまで迎え入れて、僕が逃げられないように両腕を腰に回して抱き着いてくる。
達するまで時間はかからなかった。アルバスはこれまで以上に丁寧にペニスを愛撫して、声に出さずに「はやく、はやく」と訴えてくる。
その訴えに応えるかのように、僕は欲を吐き出した。荒い呼吸音だけが聞こえている中で、ごく、と口内の精液を嚥下する音が鳴る。それを疑問には思わなかったし、驚きもしなかった。アルバスがそうするのは当然のことだと思えたのだ。
はあ、と小さく息をついたアルバスの頬を撫でて足先で股間をつついてやると、「んっ……」という上擦った声が赤くなった唇から微かに漏れ出る。
「続き、するだろ?」
「……うん、もちろん」
精液で汚れた唇できれいに微笑んだアルバスの青い瞳は、いつもと変わらないきらきらとした輝きを湛えていた。