後半シーズンのできてるD/S。兄貴が弟愛でてるだけ。
子供の頃のことを鮮明に覚えているか、と聞かれると、そんなことはない。記憶は年齢と共に薄れていくものだし、繰り返し思い出しているうちに摩耗していくものだ。
だが、それでも忘れられない思い出というものもある。俺がサムと初めて会った日もその一つだ。
俺がその生き物と対面したのは、晴れた日だった気がする。まだ母の体型が変化する前に両親から「きょうだいができる」ということは聞いていたから、俺はその“弟”というものに会うのを心待ちにしていた。
「この子がサム。あなたの弟よ」
そう言われて、無事に出産を終えた母の腕の中を覗き込む。そのとき、俺はいたく感動した――のではなく、両親には申し訳ないが、正直に言ってちょっと引いた。
俺が脳裏に描いていたのは映画やアニメ、その辺で擦れ違うベビーカーに乗っているような赤ん坊で、もっとふくふくと丸くて柔らかいものだと思っていたのだ。驚いた俺は「ハイ、サム」と小さな声で言うのが精一杯だったのだが、両親は微笑ましく見守っているだけで、少しだけ恨めしく思ったのを覚えている。
弟に対する認識が変わったのは、自宅での家族四人の生活が始まって少し経ってからだ。
サムをあやしてベビーベッドに寝かせた母が「何かあったら呼んでね。いたずらしちゃダメよ」と言って、食事の支度をするためにキッチンに向かう。
つむじにキスを落として去って行く母に返事をして、ベビーベッドの中を覗き込んだ。そこにいるのは毎日見ている弟のはずだったが、その日はレースカーテンの向こうから射し込んだ夕陽に照らされて、やけに瞳がきらきらと輝いて見えた。
気になって更に顔を近付けて見ると、それが間違いじゃないことがわかる。何色にも見えるそれが不思議で綺麗で、目を離したら消えてしまうんじゃないかと子供心に思った。
急に確認したくなって、そうっと手を伸ばす。指先で柔らかな頬をつつくと、まだ歯も生えていない口が開いて指先を銜えた。小さな口が、想像もしていなかった力強さで指先を吸い上げる。
その瞬間に胸に込み上げた感情は、なんとも形容し難い。高揚感で胸がいっぱいになった。
そのとき初めて、俺の中で“小さな赤ん坊”が“小さな弟”になったのだ。
なんて小さくて、か弱くて、力強い生き物なんだろう。そわそわと落ち着かなくなった俺は、サムの口から指を引き抜き、肩や腕をそっと撫でた。
「サミー、お兄ちゃんだよ」
そう語りかける自分の指がサムの手に辿り着くと、小さな手がきゅっと俺の指を握った。
今ならただの反射だったとわかるが、そんなことは知らない子供の俺には、まるで甘えられているように感じられた。そして、感極まった俺は、指はそのままに身体の向きだけ変えて「マムー!」と盛大に叫んでいた。
当然のことながら大声に驚いたサムが泣き始め、母が血相を変えて飛んできた。慌てる母の様子を見て、急変した事態に驚いた俺まで泣き始めてしまい、少し後に父が帰宅するまで悲惨な有り様だったと思う。
とにかく、その日は俺がサムを初めて泣かせた日であり、めでたく俺の中でサムが“可愛い弟”として認識された日でもあった。
それから俺は、事あるごとにサムの顔を覗き込むようになった。光の加減で色を変えるサムの瞳は、いくら見ても飽きなかった。俺と同じの色のときもあれば、琥珀のような色のときも、もっと深い色のときもあった。
無言でサムと見つめ合う俺を見て、母も父もよく笑った。サムが顔を真っ赤にして泣いているときでさえ、その瞳は色褪せなかった。
母が死に、家を失い、父は笑顔を失って、途方に暮れているときもサムの瞳は変わらなかった。数少ない変わらないものだった。俺は、益々弟の瞳を眺めている時間が増えた。
帰る場所などなく、各地を転々とする生活の中で不安になると、その柔らかい頬を両手で掴んで弟の瞳を眺めた。
サムが一人で歩き回るようになり、言葉を覚えて喧嘩するようになっても、その瞳だけは変わらなかった。暴れ回るサムとじゃれ合って、掴まえてはその瞳を覗き込む。数年経つとそれは半ば習慣のようなものになっていたから、拒否されたときは少しショックだった。
思春期と言える年齢に差し掛かり、何をするにも手をかけられるのを嫌がるようになり始めた頃にサムが言った。
「やめてよ、もう子供じゃないんだから」
顔を固定している俺の手をぐいぐいと押し退けて腕の中から擦り抜けていく。俺はその背中を見ていることしかできなかった。いつまでも同じではいられないとわかってはいたが、こんなに突然そのときが訪れるなんて思っていなかった。
それからはこっそり見るようになったが、それにも気付いたサムは唇を尖らせて顔を背けるようになった。
そのとき俺の中にあったのは、自由な時間が増えるんだという解放感が半分、身体の一部を失ったような感覚が半分。その後も構い倒していたのは変わらなかったが、それまでと全く同じように接することはできなかった。
それでも時々「ディーン」と呼ぶサムの声を聞くと、幼いサミーが呼んでいるような気がしてしまうんだから、もう根っから兄でいることが染みついているんだろう。
そして残念なことに、それは今でも変わらない――。
「ちっちゃいサムは可愛かったんだね。いいなぁ」
「よくねぇよ。今じゃあんなでかい殺人鬼オタクになっちまった」
にこにこと笑顔で話を聞いていたジャックが、両手で握り締めているマグカップを口元に運ぶ。ホットミルクを一口飲んで笑みを深めた。
「でも、さっきのディーン、楽しそうだったよ」
「バカ言うな」
「いいなぁ。僕もちっちゃい二人に会ってみたかったな」
「だからってタイムスリップはすんなよ」
「えっ、できるの?」
「さぁな」
目をキラキラと輝かせて尋ねられ、内心焦った。意識を逸らすために、テーブルの上に転がっていたチョコを投げて渡す。ジャックがそれを両手で受け取り、ゆっくりと味わっているのを確認して胸を撫で下ろした。あとで余計なことを言ったと責められるのは御免だ。
ジャックに『弟がいるってどんな感じ?』と突然聞かれたのが三十分程前。どう?と改めて尋ねられると、答えるのが案外と難しく、俺は遠い記憶を辿るはめになった。話しているうちに朧気だった思い出まで甦ってくるんだから、人間の記憶というのは不思議なものだ。
結局、感覚を説明するのが困難でただ思い出話をしているだけになってしまったが、尋ねてきたジャックが満足そうにしているんだから構わないだろう。
「兄弟かぁ」
チョコを食べ終わったジャックがぽつりと呟く。その言葉に憧れが詰まっているのがバレバレだ。確かによかった面ばかりを話しすぎたかもしれないと思い直し、ジャックと向き合う。
「いいことばっかりじゃないぞ。好きな物は取られるし、菓子は半分になる。なのに怒られる量は倍だ」
「お菓子が半分はちょっと悲しいかも」
「なんの話?」
会話の途中で、キッチンの出入り口から顔を覗かせたサムが不思議そうに首を傾げた。ジャックが慌ててチョコの包み紙を握りつぶしたことには気付かず、シンクに向かい、水を飲んでいる。
「ディーンに二人の子供の頃の話を聞いてたんだ」
「子供の……?またどうして?」
「兄弟のことが知りたいんだと」
「僕のお母さんは死んじゃったから、僕は一人っ子でしょ?だから、どんな感じなのかなって」
その答えを聞いたサムの目が優しく細められる。次いで、穏やかな口調でサムが尋ねた。
「それで、収穫はあった?」
「うん。弟は可愛いっていうのがよくわかったよ」
「な……!おい、ジャック!」
「え?違った?」
「ちっ、がうとか、違わないとかじゃねぇんだよ……!」
きょとんと目を丸くして見上げてくる子供を見てしまうとそれ以上責めることもできず、ただただ言葉に詰まる。何が悲しくて三十代半ばの大男に対する感情を、本人の前で暴露されなければならないのか。
それに加えて、同じく動揺する立場のはずの弟が、ぎこちなく喋る俺を見て笑いを堪えているのが余計に腹立たしい。心の中で「後で見てろよ」と念じながら睨み付けたが、残念ながらこの動揺している顔では効果は半減だろう。
しばらく俺とサムの様子を見て首を傾げていたジャックだったが、急に表情を明るくして「でも」と話し始めた。
「弟にはなれないけど、兄貴にはなれるかもしれないよね」
「……えっと?」
「どういうことだ?」
「だって、血が繋がってなくても家族にはなれるんだよ。ディーンとサムに子供ができたら、僕の弟みたいなものでしょう?」
ジャックの発言に兄弟そろって首を傾げるという間抜けな図から一変し、突然の爆弾発言にサムは固まり、俺はウイスキーを噴き出した。俺たちは確かに兄弟にあるまじき“そういう”関係だったが、周囲には――特にジャックには気付かれないように注意していたというのに、一体いつから知っていたのかとパニック状態に陥る。
「っおま、!何……!」
ごほごほと咳き込んでまともに話せない俺に「大丈夫?」と声をかけ、ジャックは心配そうに顔を覗き込んでいる。お前のせいだよ!と叫びたかったが、それは敵わなかった。
俺が必死に呼吸を整えている間にサムはなんとか再起動したらしく、ゆっくりと言葉を選びながら話し始めた。
「あー……ジャック。僕とディーンに子供っていうのは、難しいんじゃないかな」
「どうして?」
「どうしてって、なんていうか、その、生物学的に……」
「でも、今は無理でも、いつか結婚するかもしれないでしょ?」
「いや、それも……」
「ハンターの女の人も増えたし、夫婦でハンターっていう人たちもいるんだもん。二人だってどうなるかはわからないよ」
「……え?」
「だから、二人のうちどっちかは結婚するかもしれないでしょ?」
そこまで聞いて、ようやく自分たちがとんでもない思い違いをしていたことに気が付いた。さっきとは違う羞恥心でじわじわと顔が熱くなる。サムも同じだったようで、頬を赤く染め、目線を彷徨わせながら手で口元を覆い隠した。
「……サム?どうしたの?大丈夫?」
「……いや、大丈夫。なんでもないよ」
「うん……」
そう言いながらもまだ不安なのか、ジャックはじっとサムのことを見ている。
穴があったら入りたいという気持ちは変わらないだろうに、ジャックを安心させようと、サムは気を取り直して姿勢を正した。
「ただね、結婚とか子供に関しては繊細な問題だから、あんまり不躾に聞かない方がいい」
「そうなんだ……。ごめんなさい」
「次から気を付ければいいんだよ。ほら、もう寝ないと」
「うん。二人ともおやすみなさい」
挨拶を返し、自分のマグカップを片付けてキッチンを出て行くジャックを見送ってから、二人同時に思いっきり息を吐き出した。秘密は守られたことに安堵する反面、むず痒い恥ずかしさはなかなか消えてくれない。今すぐに笑い話に変えることもできず、二人共黙り込む。
その沈黙を破ったのはサムだった。
「なんか、期待させちゃうのは申し訳ないな」
「仕方ねぇだろ。兄弟でヤってます、なんて言えるか?」
その言葉に明確な返事はなく、苦笑だけが返ってくる。ああ、どうせ余計なことを考えてるんだろうなと察しがついた。血の繋がりや性別なんてものとは随分と前に決着をつけたはずなのに、弟のよく回る頭は、時に余計なものまで引き出してくる。
小さくため息を吐き、グラスにわずかに残ったアルコールを胃に流し込んで立ち上がる。テーブルの上を片付けて廊下に向かう途中、出入り口で立ち止まり、声をかけた。
「あとで俺の部屋に来いよ」
声に反応してサムが顔を上げる。言葉の意味を理解して一瞬迷ったサムが、確かに頷いたのを確認してから自室に戻った。
*
「……ねえ、もういいだろ?」
「いいからもう少し大人しくしてろよ」
仰向けに寝転がったサムの頬を掴まえて、上下逆さまの顔を覗き込む。サムはベッドの上で胡座をかいている俺の足の間に頭を乗せる形で横になっている。だが、これは膝枕のような甘い体勢ではなく、素直に部屋にやってきたサムを俺がベッドに転がしたに過ぎない。
顔を固定している手を退けようとしない俺を見上げたまま、サムが諦めたようにため息を吐いた。吐き出された息と共に、目蓋が降りていく。
「目、閉じるなよ」
「えぇ?」
「たまにはお兄様に付き合ってくれてもいいだろ」
「いつも付き合ってるだろ」
そう言ってわざとらしく鼻で笑ってみせるくせに、ちゃんと目を開けている。顔の向きを変えることができないサムの瞳は、嫌悪も歓喜も乗せず、ただ真っ直ぐに俺を見ていた。
照明の光を受けた瞳は、アンバーと淡いブルーが混ざったような色をしている。今日の色は飴玉みたいだな、などとぼんやり考えていると、サムの口がゆっくりと開いた。
「そういえば、子供の頃はよくこうしてたね。兄貴はいつの間にかやめちゃったけど」
「おい。お前がやめろって言ったんだぞ」
「本当に?覚えてないや」
さらりと何でもないことのように言われて脱力した。これだから弟なんて薄情なものだ。俺がそれなりにショックを受けてたなんて、これっぽっちも想像がつかないんだろう。
俺が口をへの字に曲げたことに気付いたサムが苦笑する。
「悔しかったんだよ、きっと。赤ん坊みたいに扱われてる気がして」
それは否定することができなかった。あの頃は、覗き込む瞳の奥に何もかも揃っていた過去を投影していたこともあったはずだ。だが、今は違う。
身体を折り曲げて上半身を下ろしていく。そして、逆さまのまま口付けた。
「これでもまだ赤ん坊の気分か?サミー」
そっと触れた唇を離して囁くと、サムは俺の下で小さく笑った。
「まさか。どちらかというと、糸でぶらさがってる気分」
「とびきり美人に撮影してやるよ、MJ」
「僕がMJ?ディーンはスパイダーマンって柄じゃないだろ」
「お前はオタクなところは似てるかもな」
軽快に笑ってもう一度口付ける。うっすらと開いた唇を食み、ほんの少しだけ歯を立てる。弾力のある感触を堪能してから解放すると、サムは躊躇いがちに視線を合わせた。
「……僕だって、ディーンのこと見てたよ」
どうしてそんなに上手いこと上目遣いになるのかと毎度不思議でたまらないが、縋るように見つめられると敵わない。子供の頃にこうやって見ていたことも、本当は嫌がっていなかったのかもしれないと思うと、勝手に頬が緩んでしまう。だらしなく笑ってしまう口元を隠すために、再度キスを落とした。
「サム、頭起こせ」
「うん……何?」
「息子の頼みは聞いてやらなきゃな」
「頼み?」
サムが上半身を起こしたことでできた隙間から抜け出て、今度は上から覆い被さる。されるがままになっているサムに向かって、しっかりと笑顔を作ってやった。
「子作り」
そう告げた途端にサムの顔が険しくなったが、文句を言われる前に口を塞ぐ。そのまま頬や耳にキスをして首筋に舌を這わせると、ひくりと喉元が震えた。痛まない程度に噛み付いて、しっかりと張り出した鎖骨の感触を愉しむ。
「っ、ぁ……ディーンが、ヤりたいだけ、だろ……っ」
「心外だな。これでも真面目に言ってるんだぞ?」
「第一、男同士じゃできない……ン、っ」
「かもな。でも家族は増えた」
うっすらと歯形がついた箇所を唇で辿りながら服の中に手を滑らせて脇腹を撫でると、それだけでサムの指先に力が入った。触れられることに慣れた肌はすぐに熱を持ち、この手を愉しませてくれる。動かす手はそのままに顔を上げると、サムの目元は既に赤くなり始めていた。
「俺たちが子育てなんて嘘みたいだよな」
「それは、っはぁ、本当に、そう……」
そう答えたサムは静かに笑っていた。顎や口元に愛撫を施していく程に、ゆっくりと瞳が蕩けていく。それを眺めながら、刺激を待ちわびている身体に集中することにした。
潤滑剤で濡れて柔らかく口を開いた孔にペニスを埋め込む。完全に勃起した性器を難なく飲み込んでいく光景は、いっそ視覚の暴力だ。少しずつ腰を進める度に鼻にかかったような甘えた声が耳を擽り、それを堪能するためにわざと時間をかけて挿入していく。
「な、んで、……っナマ、なん……あッ」
「んー?スキンつけたら、子作りになんねぇ、だろっ」
「だから、っ、できな、ぃ……っぁ、あ……!」
奥を抉るように突くと、サムはびくびくと跳ねる身体を縮こませた。抱えた両脚にぎゅっと力が入り、腕が顔の半分を隠している。ナカで感じているときにきつく目を閉じてしまうのは、ほとんど反射に近いだろう。抱えていた脚を下ろし、汗で額に張り付く髪を除けてやる。
「サム、目開けてろよ」
「っふ、ぅあ、あっ、や」
「ほら。言うこと聞かないと動いてやらねぇぞ」
「や、だぁ……ッん、ん」
赤く染まった目蓋がそろそろと上がっていき、涙で濡れた瞳が姿を現す。しっかりと視線が交わる瞬間を狙って腰を押し付けると、サムは大きく目を見開いた。縋るものを求めてシーツを握り締め、口は半端に開き、はくはくと音にならない声を零し続けている。うねる粘膜はペニスを強く包み込み、しがみ付いて離れない。
繋がっている箇所から腰までダイレクトに快感が駆け抜けて、堪らず乾いた唇を舐めた。すると、それにつられるようにサムの舌が伸びてきて、誘われるままに吸い付いた。舌の付け根や上顎、サムのお気に入りの場所を舌で弄ってやると、素直なアナルが締め付けてくる。
その間もじっと瞳を覗き込んでいた。虚ろな瞳がゆらゆらと揺れたかと思うと、投げ出されていた両脚が腰に回ってきて、唇を合わせたままつい笑ってしまった。
「な、に……」
「いや?お前も乗り気だな、ってさ、ッ」
「アッ、っ、おく、ばっかり……!」
「奥じゃないと、意味ない、だろ?」
腸壁の突き当りを何度もペニスの先端で押すと、強すぎる刺激を逃がそうとサムの身体は益々強張り、余計に絡みついてくる。だが、それが痛みからくるものではないというのは見ていればわかる。全身を真っ赤に染めて、涙と唾液が枕に染みているのにも気付かないほど緩んだ顔をしておいて、痛いも何もないだろう。
ぐぷぐぷと音を立てて体内を掻き回すと、その動きに合わせて腰が揺れる。もう何も指示していないのに視線を外そうとしない様は、どうしようもなく高揚感を煽った。
「ディー、っぁ、もぅ、いきそ……っ」
「ナカだけでイけるな?」
その問いかけに対してサムは必死に、何度も頷く。前立腺を押し上げるように粘膜を擦ると、一際大きく身体が跳ねて、しがみつくように回された脚がぐっと腰を抑え込んだ。張り詰めたサムのペニスから精液が零れ落ちる。それを掬い上げてみっちりと広がった粘膜に塗り付けた。わずかに腰を引いてできた隙間に流し込み、もう一度腰を押し付けて封をする。
「ひ、ぁっ、な、なに……っ」
「こうしないと混ざらないだろ」
「ぇ、あ……?」
「ほら、まだ終わりじゃないぞ」
「っ、ぅあ、あっ、待っ……いま、イ、った……!」
「知ってるよ」
縋るように伸ばされた指にキスをして勢いよく腰を叩き付ける。衝撃に見開かれた瞳が段々と快楽に濁っていく。ペニスが突き当りの壁をノックする度に粘膜が吸い付いてくるのを感じて、うっそりと目を細めた。
直に俺のための孔を感じると、これ以上ないくらいに脳が溶けていく気がする。上体を起こしてサムの脚を肩にかけ、腰をしっかりと掴む。衝撃を受け止めているサムの尻の肉がほんのりと赤くなっているのが視界に入り、ぞくりと支配欲を満たした。
「っは……サム、出すぞ」
「んっん、ぁ、でぃ、ディーン……!」
「なんだ、サミー……ッ」
喘ぎ声を漏らしながら浅い呼吸を繰り返しているサムが、そろそろと手を伸ばした。微かに震える手が、腰を掴んでいる手に重ねられる。それから一瞬言葉を飲み込んで、ゆっくりと吐き出した。
「ディーン、っ、ちょう、だい……っ」
「……ッ!くそ、っ」
一気に駆け抜けた衝動に抗えず、体内に欲を吐き出す。全て出し切ってから、脱力しているサムの顔を窺うと、満足そうに笑みを浮かべていた。してやられた悔しさを誤魔化すように、未だ挿入したままのペニスで体内に残った精液をかき混ぜる。
「ぅ、ん……っも、イったって……」
「でもなぁ……しっかり混ぜないと」
「なにを……?」
「俺とお前の精液」
頬を紅潮させたまま目を丸くしたサムが「バカじゃないの」と言って笑う。文句を言う代わりに肩に噛みつくと、ぺし、と額を叩かれた。
「なんだよ」
「痕つけるなよ……見つかったら困る」
「はいはい。わかってるよ」
気怠そうに喋っている間も繋がったままの粘膜はぬかるみ、じわじわと快感を与えてくる。ぼんやりと呼吸を整えているサムの姿を眺めながら、その瞳がどれだけ他人を惑わせているのかわからせてやろうと決めた。
湿った髪を掻き分けて、首筋、肩と唇で順に辿っていく。軽く睨まれたが、極上の笑みで返してやった。
「一回じゃ子作りには足りないかもしれないだろ?」
「……朝の支度はディーンがやれよ」
「仰せのままに、マム」
「……せめてダッドにしてよ」
諦めたようにため息を吐き、生意気な言葉を紡ぎ出す唇を塞いで黙らせる。
朝の支度ぐらいで済むならお安い御用だ。あとで何を言われたって知るものか。