*おまけ
ヒさんが気持ちに気付く話
アメリカで行われている大規模なプレミアの真っ最中、撮影の合間に僕はベネディクトと並んで座っていた。少し離れた場所では年下のトムとポムが楽しそうに話している。トムは目新しいものを見つけるのが得意で、面白そうなものを見つけては飛びついていた。見たことのないものに触れては周りににあれこれと聞いている。
僕らはそれを眺めながら、保護者気分でくつろいでいた。
「彼は面白いね」
「ホランド?」
「そう」
「一緒に撮影してるとハラハラするよ」
「僕は君がいるから心配してないけどね」
面倒くささを演出しながらそんなことを言ってのける友人に笑顔で返すと、彼もまた笑って見せる。文句を言いながらもトムを見守るベネディクトは父のような、兄のような顔をしていた。
誰の懐にもするりと入ってみせる。それもトム・ホランドという人間の魅力なのだろう。
彼を見ていると力を貰える。つい笑顔になってしまうのだ。
「彼は、本当に眩しいね」
「ああ……」
相槌を打ったベネディクトが唐突に小さく噴き出す。特に心当たりが無い僕が驚いて隣を見ると、年上の友人は僕を見ながら愉快そうに笑った。
「君のそんな顔は久しぶりに見た気がする」
「え?」
「よく似てるよ。君の……ほら、“腹違いの兄弟”を見てる時と」
指摘された単語に一度心臓が跳ねたが、それを隠して微笑んでみせる。
「どっちも僕には眩しく見えるんだよ」
「うん。わかるよ」
会話を終わらせた保護者達は顔を正面に戻し、呼ばれるまでの時間を静かに待つ。なんでもない顔を装いながら、ひどく心臓がうるさかった。椅子に肘をつき、口元を指先で撫でる。
自分の視線なんて気付いていなかったけれど、言われてみれば、僕はよく彼を見てしまっている。つまり、そういうことなんだろう。
想いを抱いたところで彼をどうこうしたいなんて思わないから、少しばかり感傷的になるのは許してほしい。
増えてしまった秘め事に思い切りため息を吐きたくなるのを我慢して、ほんの少しだけ目を閉じた。