食べる姿がえっちな話。
食欲と性欲が近しいと言ったのは誰だっただろうか。
泊まっているホテルの近くに評判がいいレストランがあるから行かない?と声をかけられ、出演者たちでそこへ向かった。
気心の知れた仲間との食事は楽しく、料理もお酒も美味しくて、注文した皿の中身がどんどん消えていく。
僕もみんなと一緒に騒いでアルコールを口に含んだとき、とん、と何かが足にぶつかった。
テーブルの下を目だけで確認してみると、向かい側に座っているクリスの靴が当たっていた。少し姿勢を崩しすぎたかなと思って足の位置をずらしたが、それを追いかけるようにまた足がぶつかる。
ああ、わざとやっているんだとそこで気付いてクリスの様子を伺ってみるが、彼は少しもこっちを見てはいなかった。何食わぬ顔で笑い続けながら、クリスの足は僕のふくらはぎを擦る。
ぴくりと肩が跳ねてしまったが、クリスは気にする様子はない。
彼は全てわかってやっているのだ。僕らが壁際に座っていて誰にも気付かれないだろうということも、僕がここで声を荒げることがないことも。
アルコールとは違う意味で火照りそうになる身体を、息を吐いて誤魔化す。
会話から抜けてしまった僕を心配してラファロが「大丈夫?」と声をかけてくれたのに「飲み過ぎたかもしれない」と嘘をついた。
原因は目の前にいる男だとわかっている。けれど、誰にも訴えることは出来ず、僕は熱くなった息を飲み込んだ。
目の前ではクリスが食事を続けていた。
クリスが握っているフォークが彼の口へと運ばれていく。唇がゆっくりと開き、フォークの先端に刺さった肉を赤い舌が迎え入れる。肉の欠片が口のなかに収まって、油で濡れた唇を舌が舐めとり――彼の視線がこちらを向いて目が合った。
僕の目線の意味を見透かしたように彼は笑う。
思わず大きく息を吸い込みそうになった僕に向かって、クリスは人差し指を唇にあてて「しぃ」と合図を出して目を細めた。
そして何事もなかったかのように豪快に笑う。
「トム、これが気になるのか?美味いよ」
「……ありがとう」
勧められるまま肉を噛み砕いて飲み込んでも、どんな味だったのかわからなかった。
*
ホテルの廊下で解散してそれぞれの部屋に戻った。
僕も自分の部屋に入り、そのままドアに背を預けて時間が過ぎるのを待つ。何分か経って、もう誰かと遭遇することはないだろうというタイミングで部屋を出て、目的のドアをノックする。
すると、ほとんど待つこともなくドアが開いてクリスがそこに立っていた。
「来ると思った」
「君がそう仕向けたくせに」
促されるまま室内に滑り込んで、ドアが閉まりきる前に彼の唇に噛み付いた。
一瞬よろめいたクリスはすぐに体勢を立て直し、僕の後頭部を両手で固定した。荒い呼吸が室内に響き、お互いの口内を行き来する舌が立てる水音が脳を揺さぶる。
優しいキスなんかじゃない。
まさに喰らい付くという言葉が相応しいような乱暴なキス。ずっと我慢していたんだから、こうなるのは必然だろう。彼もわかってやっていたから、今こうして狼狽えることなく応えてくれているのだ。
唇を合わせたまま部屋の奥に誘導されて、ベッドへと放り出された。スプリングが軋み、身体が跳ねる。
しかしそれを認識するよりも先にクリスが覆い被さっていた。
再び唇を合わせながら僕は彼のベルトに手を伸ばし、ガチャガチャと音を立ててそれを外していく。
「ね、なんで、あんなことしたの……っ」
少し咎めるようなニュアンスを含ませて、キスの合間に途切れ途切れになりながら言葉を紡ぐと、欲情しきった顔でクリスがにやりと笑った。
「食事してるトムがえろかったから」
その言葉を聞いて僕は少し笑ってしまった。
結局僕らはお互いを咎めることなんて出来ない。どっちもどっちなんだから。
何度もキスを交わしながら、二人揃って忙しなくシャツを脱ぎ捨てた。裸になった肌が触れ合って気持ちいい。
まだろくに触られてもいないのに、下半身は熱を持って張りつめている。
僕の首から胸へと唇で触れながら降りていくクリスの髪を掻き抱き、つむじにキスを落とす。
僕の顔を一瞬確認して、クリスは胸の突起を吸い上げた。
「っ、あ……っはぁ」
突然の衝撃に声があがる。
それに気をよくしたクリスは舌で押し潰すように愛撫し、もう片方も指で摘まんだ。すぐに固くなったそこは快感を拾い上げ、どんどん呼吸が乱れていく。
性器がスラックスを押し上げて苦しい。
僕にのし掛かっている肩に手を伸ばしてすがり付くと、空いた手のひらが脇腹を撫でた。そのまま肩から腕まで指先でなぞられて勝手に身体が震える。快感が止まらない。
ちゅ、と音を立てて胸の突起を口に含んだまま、クリスは器用に僕のベルトを外していき、上体を起こして下着ごとスラックスを僕の足から抜き取った。
そこからすでに勃ち上がった陰茎が姿を現し、クリスの喉が鳴る。
足を開かされ、次にくる刺激を期待してしまい腰が揺れた。
クリスがしっかりと僕の顔を確認して、自分の唇に触れた。ぺろりと指を舐める仕草に心臓が激しく脈打つ。
「トム、ちゃんと見てて」
少し開いた唇を指差してそう言うと、クリスはゆっくりと屈んで僕の性器の先端を口に含んだ。
「あっ、あ、クリス……!っあぁ」
時間をかけてクリスの口内に僕の陰茎が飲み込まれていく。
ぬるりと温かい感触に腰が重くなり、背筋を這い上がる快感を逃がす場所が欲しくてシーツを握り締めた。
クリスの頭が上下する度にじゅぷ、といやらしい音が響いて耳まで犯されているみたいだ。無意識に腰が揺れてしまい、喉の奥を突いてしまわないように必死になって堪えていると、無防備な後孔をつつかれた。
僕が前への愛撫に夢中になっている間にローションを取り出していたらしく、ぬるぬるした指で入り口を撫でられそのまま挿入された。
「えっ、あ、まって……っひ、ぁ……っ」
陰茎は口に含んだまま指で体内を抉られて、過ぎた快楽に涙が滲んだが、クリスは躊躇うことなく指を進めてほぐしていく。
前からも後ろからも快感が襲いかかって逃げ場がない。
爪先がシーツを引っ掻き、布を引き寄せるように指先に力が入ったが、それでも逃げ出すことは出来ず、あられもない声をあげ続けるしかなかった。
そして二本目の指が挿入される。
「あ!あっ、ア、んんっ……くりす、もうっイきそ……っ」
半泣きになりながらそう訴えるとクリスはようやく口を離し、体内のしこりをぐっと強く押した。
「はぁっ、あ――……!」
脚にぎゅっと力が入って勢いよく射精した。吐き出した精液が胸まで汚しているのが視界に入ったが、僕は訪れた絶頂を受け止めるのに精一杯だ。
「トム、美味そう」
後孔から指を抜かれ、こぼれた涙をクリスの唇が吸い取り、頬にキスをされる。クリスの頬を捕まえて口付ける。
合わさった唇の隙間から舌が口内に侵入してきて上顎を舐めている間に、質量を失った後孔が寂しいと訴え始めていた。
半端に触られて粘膜がじくじくと疼く。失った質量を求めてそこがきゅう、と収縮するのがわかって腰が揺れた。
口内を撫で回す柔らかい舌を絡めとりながらクリスの下着のなかに手を差し込むと、硬く張り積めた陰茎が熱く脈打っていて、思わず唾液を飲み込んだ。
唇を離して乱れた呼吸を抑えることもせず、鼻がぶつかる距離のまま熱っぽく見つめ合う。
「もう挿れたい……っ」
「ぼくもっ、はやく欲しい……!」
もう一度噛み付くようなキスをしてからクリスは身体を離して服を脱ぎ去り、天井を向いている性器にスキンをつけた。
僕は膝を立てて尻の肉を掴み、これから彼を受け入れようとしている窪みを見せ付ける。それを見たクリスが息を飲んだのがわかった。
「っトム、」
「クリスっ、お願いだから、はやくちょうだい……っ」
「ああもうっ、くそ……!」
膝裏を抱えて、ぐっと脚を割り開かれる。
ぬるつく後孔に熱い先端が当たって、一気に体内に押し入ってくる。硬いそれに粘膜が絡み付き、身体中を快感が駆け抜けた。
はくはくと息をしようとする僕を見かねて動きを止めたクリスは、抱えた脚に何度もキスをした。噛まれ、舐められ、その度に身体が跳ねる。
「っクリス、動いて……っあ!ん、ぁ……っ」
「ああっ……」
呼吸が整ってきた頃を見計らって、先端がぐっと奥に擦り付けられる。クリスが腰を揺らすと、性器を奥まで誘い込もうと粘膜が蠢いた。
張り出した凹凸でごりごりと前立腺を擦られて、身体が何度も痙攣する。
「トムっ、はぁ、あー、いい……」
「んぁ、っあ、っ、ぼく、も……っ」
ぺろりと唇を舐めたクリスは僕の脚を下ろし、腰骨を掴んで、深く深く挿入した。それでももっと近付きたくて、身体の奥でクリスを感じたくて、僕のなかを抉るために動かされている腰に脚を絡める。
「あ、アっ、んっ……くりす、クリスっ」
「っはぁ、やばいな、コレ……!」
指先がクリスの背中を掠める度に、眉間にしわが寄っているのが視界に入って、彼も感じているんだとわかって更に興奮してしまう。
いつの間にか僕の性器は完全に勃ち上がって、二人の間で揺れていた。
がつがつと激しく突き上げられ、身体の奥の熱が蓄積されて全身を駆け巡り、出口を求めて彼の腰に自分の腰を擦り付けた。
「あ、だめっ、いく、いくっ……はぁ、あっ……!」
「っ出すぞ……!」
僕が達して体内の性器を締め付けるのと同時に、クリスも僕のなかで達した。
必死に酸素を取り込みながら、性器を抜かれた僕の後ろの孔は空洞を埋めようとひくついている。たっぷりと精液を吐き出されたスキンがゴミになるのを眺めながら、自分の身体を汚している自分自身の精液を掬いとった。
身体中が汗で湿っている。足りないと思ってしまう僕は貪欲なんだろうか。
処理を終えたクリスが覆い被さってキスをくれる。顔の横に置かれた筋肉質な腕を撫でながら、僕はイタズラをするときみたいに尋ねてみた。
「まだ欲しいって言ったら怒る?」
クリスは一瞬きょとんとこちらを見つめ、そしてすぐに笑い出した。
「俺も同じこと考えてた」
二人揃って吹き出して、啄むだけのキスをしてから、クリスは新しいスキンに手を伸ばした。